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2008年10月20日

第15回 : Nyee Moses

 先日 Nyee Moses という女性シンガーの仕事でカタリナアイランドという島に行ってきました。ロングビーチのハーバーから船に揺られ約1時間程で到着。会場入りした後、サウンドチェックまでの短い間に、昼飯を食べに行く。会場から徒歩3分のイタリアンレストランで、テーブルを囲みチキンカサディアを食べているのが Alex Alessandroni (Bobby Brown, Christina Aguilera, Pink, Earth Wind & Fire などのキーボード、兼音楽監督仕事) クラブケーキを食べているのが Reggie Hamilton (Bette Midler, Babyface, Seal, Whitney Houston などのベーシストで、僕の事をこの仕事に推薦してくれた張本人) ギターの Juan Carlos Quintero、サラダを食べているプロデューサーの Susan Youngblood、ツアーマネージャの Doug Anderson、何故か美しい島の海辺でまったく場違いなステーキを注文してしまった イズミタニマコト の6人(笑)。海を眺めながらのランチは、とても気分が良く、美味かった。

 食べ終わるか食べ終わらないかぐらいになって Susan が、『あっ、もうこんな時間!!。5時5分前よ。サウンドチェックは5時からだから急いで会場に戻らなくちゃ! ほら皆、はやく早く!!』 と言って Doug と急いで立ち去る。他の連中も次々に急いで戻って行った。最後に残った快楽主義者の二人、イタリア生まれの Alex と日本生まれの自分も(ちぇっ、仕方無いよな。。メシ位ゆっくり食おうぜ。。)という感じで、まるまる残っていたアイスティーを一気飲みして、しぶしぶ席を立った。

 早歩きで会場に戻るが、この日同じステージに出演したアーティストのサウンドチェックが長引き、1時間以上待つ事に。結局自分達がステージに上がりセッティングを始めたのが開場予定時間6時を少し回った 6時15分。ちなみに開演は7時。急いでセッティングを開始する。

 この仕事を任された時にマニュピレーターの仕事(プロツールスの入ったバッキングトラックのオペレート)も頼まれたのだが、Susan 所有のマッキントッシュがプレイバック中にフリーズする。一度アプリケーションを閉じて、再起動してみるが、又直ぐ止まる。コンピューター関係に、強いベースのレジーが来て、色々設定を変えてみるが、2分も持たずに止まる。皆止まるたびに、人の顔見て"What happen?(どうなってんだ?) "と聞いて来る。(笑)そして15分程だったサウンドチェック中、時間が無駄に流れていく。(笑)モニターエンジニアには十分な指示を与えられず、必要な物は聞こえない。レジーの経ち位置が丁度アレックスと自分の間にあって、音楽監督の合図は何も見えないが、それを直す暇もなかった。FOH のエンジニアは時間に追われ怒鳴りだし、ベースのチャンネルに乗ったノイズに文句を言い続け、レジーがキレかかっている。結局プロツールスはNG という状況で6時30分に強行開場。

 サウンドチェックが終わり客がどんどん入って来る中、一人ステージに残り、ようやく少しだけドラムのセットアップをアジャスト。そしてプロツールスの代わりに別のバックアップが使われる事が決定し、それ用に別のヘッドフォンアンプ、DI などをつなげた所で、楽屋に戻る間も無く開演。

 最初の4曲はバッキングトラック(主にパーカッション、バックグラウンドヴォーカルと幾つかのキーボード) と一緒に同期演奏。ドラムライザー下からのライトが眩しい上、譜面台のライトが弱くて譜面が良く見えない。一度止めたバックアップをもう一度プレイバックしようとするが何故か出来ない。そうこのバックアップはショーのセットリスト全てが1つの長い曲として入っていた為、セットの途中からの頭だしは不可能だったのだ。この時点でバックアップの使用も不可能になり、トラック無しで演奏を続ける。(笑)

 サウンドチェックには出て来なかったゲストのトランペッター Greg Adams (元 Tower of Power のメンバーで、グラミーにノミネートされた "What is hip?" などのホーンアレンジメントをした人です。)が登場、耳を研ぎ澄ませてモニターから出て来ない広いステージ上はるか遠くにいる彼の音を聞いて盛り上げる。なんとか乗り切って終わらせた。客は盛り上がっていたし、トラック無しの完全生演奏になって、逆にバンドが自由になってダイナミクスが出て逆に良かったのかもしれない。

 こういったアンオーガナイズな状態で、やらなくてはならない状況も、たまに有る訳だが、ラテングラミー生中継の仕事を終わらしたばかりで、ホイットニーヒューストンのツアーメンバーでもあった、Alex と Reggie は、一流のクルーと仕事をする事が多いとあって、『だからよー、田舎のスタッフは仕切りが悪りーしよぉー、使えねえーんだよ。』みたいな文句を言って相当機嫌が悪かった。終わった時点では、笑い飛ばしていましたが。。。(笑)Suzan が帰りの船の中で、『せっかくこの面子を集めたんだから、次回はバッキングトラック無しでやらない?』 と提案。最初からそうしとこうぜ!と思ってしまった。(笑)

 そして翌週少し違うメンバーで再度同じフェスティバルへ。ベースが Reggie Hamilton から Oscar Cartaya (Spyro Gyra, Herb Albert, Jennifer Lopez, Celia Cruzなどをやっていた人。)に。トランペットが Greg Adams から、Brian Swartz に。そしてパーカションに Kenny Loggins, Joe Zawinul, Chaka Khan, American Idol Band などの Kevin Ricard が参加。前日に来たメールにケビンの名前が載ってるのを見て、コンピューターは、使わないのだと思い込んだ。同じ船には、この日のヘッドライナーの Mindi Abair とそのバンド達が揃う。彼女のバンドの中に友達や知り合いがいて、船の中は、わいわいがやがや、中々良いムードが漂う。

 会場に着き次第、Mindi のバンドが直ぐサウンドチェックを始める。こちらも急いで飯を食いに行く。サウンドチェック開始予定時刻を少しすぎた5時20分、会場に戻る。よし、Mindi のバンドのサウンドチェックは終わっている。今回の仕切りはベター。当たり前の事だが、先週の事が有った為、ほっとする。

 楽器をセットし始めキック、スネア、タム、と一つ一つ FOH のエンジニア(PAのエンジニア)にシグナルを送っていたその時、ツアーマネージャーのダグが突如コンピューターを持って来る。『冗談だろ、又これを使うわけじゃねぇだろうな?』 思わず強い口調で詰め寄ってしまった。『いや、俺もそう思ってたんだけど、今になってスーザンが使うから楽屋に取りに行ってセットアップしろと言ってきたんだ。』『けどセットリストも先週と違うはずだろ?』『新しく編集し直したらしい。』『わかった、、じゃあつないでくれ。やってみようぜ。』 FOH のエンジニアが例の調子で、『そろそろ時間も無くなってきてるぞ。コンピューターは無かったんじゃねーのか?』と叫び始めた。バンド全員に『とりあえずトラック無しで出来る曲からやろう。その間にダグにコンピューターをセットしてもらうから、それでとりあえずモニターのバランスを調節し始めようぜ。』と提案する。 アレックスが『良いアイディアだ、じゃあ5曲目から、1、2、3、4、』 演奏しながらモニターエンジニアに指示を出す。『もっと、Keyboards, Bass, Guitar, Percussion を上げてくれないか? あとキックがデカ過ぎるから、少し下げてくれ。』 少しずつ良くなってきた。Kevin がコンガのレベルを揃えてくれと、指示を出す。コンピューターも準備ができた。『よし、次コンピューターと同期の曲行くぞ。』『1、2、3、4、』 アレックスがエンディングのキューを早く出し過ぎた。全然慌てない。本番さえ上手く行けば良いのだ。コンピューターも止まらず安定している。モニターが出来たら、アレックスがステージ前方に皆を円形に集め、最終確認をする。セットリストと譜面を見ながら一曲ずつ大事なパート、曲の変わり目の指示を明確に出して行く。それでサウンドチェックも終わり。そして本番。

 全てうまくいった。一番びっくりしたのは、ベースのオスカー。オスカーとはキーボードのデービッドガーフィルドの紹介で一緒にベイクドポテトで演奏した事もあったのですが、(確かストールンフィッシュのキャーレンに電話番号を聞かれた時)この日は完璧なグルーブと美味しいフィルも沢山決めていた。

 実はこの仕事、4時間のリハーサルが、1週目のギグの前に2回有ったのだが、音源を渡されたのがその前日。譜面を渡されたのは当日で、しかも、もらった楽譜のコピーが凄く薄くて全然読めない。(笑)1回目のギグ前日にあった2回目のリハーサルはレジーが来れずにオスカーが変わりに来た。そして1回目の最悪のギグの後2回目のギグまでは何も無かった。かなりいい加減な状況。しかし本番はバッチリ決まった。

 やっぱこうでなくては。有る程度のメンツが集まって、各自がそれぞれのパートをきちんとこなせば、こんなもんだ。

 楽屋に用意されたワインで乾杯!! 酒も超美味く感じる。楽屋でも帰りの船も皆機嫌が良く、ジョーク大会で盛り上がった。

 やって、本当に良かったと思えたひと時でした。


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投稿者 Makoto Izumitani : 2008年10月20日 05:13