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KTS Titanium Section インタビュー

 

Photo by Taro Yoshida (Copyright 2003 Taro Yoshida)

2003年 NAMMショーブースにて

今回は、チタンサドルでギター業界に新しい素材とパーツのあり方を改めて認識させてくれたKTS Titanium Sectionの増田社長にお話しを伺いました。

KTS Titanium Sectionのサイトはこちらです。

PCI) 増田さんは元々協和特殊伸線とういう金属関係の会社を経営されていて、新たにKTS Titanium Sectionという楽器用パーツの製造販売を始められたわけですが、そのきっかけを教えてください。

増田)元々は、チタンという金属を使用して時計のバンドの製造がメインの仕事だったんですが、バブルのあと売り上げが落ち込んだりしたので時計の仕事以外でも自分の工場で生産できるものは無いかと考えた時にギターパーツとしてのチタンの有効性に思い当たったんです。自分もギターを弾くもので常々、レスポールのサドルの素材が非常に密度が低く弦振動を伝えるには向かないものを使用していることに疑問を持っていたんです。そこでチタンを使ってサドルを作ってみたらこれが自分で言うのもなんですが素晴らしい音の変化があったんです。それまで埋もれていた音が目の前に現れたような感じに驚きました。きれいな輪郭と倍音、そしてロングサスティーン。そこで行きつけの楽器屋さんにそのギターを持ち込んで試してもらったところ非常に高く評価していただいて、商品化してみようかということで始めたんです。ただ、素人の私が音が良くなるといっても信頼性が無いので誰か音の権威のある人に分析してもらえないかと考えていたら偶然テレビ番組で日本音響研究所の鈴木松美先生と言う方がいらっしゃるのを知ったんです。早速、先生に連絡をしてチタンサドルの音響特性を分析してもらったんです。そうしたら先生が「増田さんいい物を作りましたね、全然違いますよ。」と言って高く評価して頂いたので自信を持って販売を始めることにしました。

PCI) それで始めからカタログに音響特性の比較表などが載せられていたんですね。説得力ありますね。

増田)チタンは内部減衰率が非常に低い金属なんです。これは、金属の内部で音(振動)を吸収しない性質をもった金属なんです。だから音響関係の材料としては非常に適しているんです。その後、色々と調べてみると、内部減衰率に関してチタンはブラス等に比べてはるかに低く、振動をロスすることなく伝達できる金属だということの裏付けが採れたんです。

PCI) なるほど、これまで主流で使用されていた金属よりもはるかに優れた物なんですね。具体的にはどのような方法で音響特性を測定したんですか?

増田)測定の当日、チタンサドルを取り付けたギターとブギーのアンプを持って行ったんですよ。ところが先生は、アンプを通すと本来の特性が計れないからと、直接音響測定器にギターを繋いで開放弦で弾いてくれというので私が弾いたんですが、ピッキングの強弱によってもサスティーンなどに差が出るのではと思って先生に聞くと、そういった強弱の差は測定器の方で平均値を取って計るので心配ないということでした。

PCI) そうですか。科学的な分析ってすごいですね。もちろんお金もかかる物でしょうが、ギター業界って色々なことが全て感覚的なことで語られてて、きちんとした根拠が無い物がほとんどなんです。時々ピックアップの特性の違いをグラフで表したものやミュージシャンが弾いてその意見を述べるものがあるんですが、この場合測定するのはどこかのメーカーの人で専門家ではないわけです。科学的分析されてるものって少ないんですよ。例えばテンションのことや、アルミとブラスとスティールでは、どれがテールピースなどのブリッジの素材に向いているのかとか、ピックアップの磁力と弦の関係など。もちろん科学的に分析された物が全てだとは思いません。音の好みって人それぞれだし、音楽って感覚的な要素の強い物だと思うので。でももう少し科学的な裏付けがあると全体的にいい物が作りやすいと思うんですよ。そういった意味で音響特性を分析したのは画期的ですね。それでは、具体的に既存のサドルとの製造方法のちがいを教えてください。

増田)チューンオーマティックのサドルは、ロストワックス(ダイキャスト)といういわゆる高熱で溶解した金属を型に流し込む方法で作られているためどうしても空気が入り込み結晶密度が低い物になってしまうんです。これだと弦の振動を伝達する上でかなりのロスが出てしまいます。そこでTitanium(タイタニウム)と言う金属を、流し込みによる鋳造製法ではなく、かといってプレスでもない圧延と言う方法をとりました。このように丸いチタンの棒状の材料に上下、左右からローラーで圧力をかけて引き延ばしていくんです。

最終的にはローラーに型を抜いたもので圧延しサドルの原型ができるのですが、この様な圧延を何度か繰り返すと結晶粒度が増すとともに硬度も増していくのですが、内部の結晶には目に見えないひびが入るんです。金属組織的には非常に不安定な状態になるんですね。そこで焼き鈍しという処理(我々はヒートトリートメントと呼んでます。)を施します。この工程を行うことによって金属が安定した状態になるんです。この状態になったチタンに切削・穴空け加工をして、ようやくひとつひとつのサドルになるわけです。

圧延機器

PCI) 同じ形のサドルは色々なメーカーから出ていますが、たいていはダイキャストか、プレスですね。KTSのようにギターのパーツの一部にここまで手間をかけて作っている所は無いと思います。増田さんの場合は、金属業界の常識で振動を伝達する部分に使う金属として適した物はと言うところから始まっているので考え方が全く別の物ですね。これは、全く別の業界から来た強みですね。

増田)そうかもしれません。でも始めは全く知り合いがいなかったのでどうやって販売していったらいいのか試行錯誤でした。知人を通じて紹介してもらったメーカーの方に試したもらったところ「サスティーンが伸びるのは解るけど高音がキンキンして気になる。」と言われたんです。この時試してもらったのは圧延して硬く結晶粒度の詰まった状態にしただけの物を持っていったんです。それで硬さの問題かと思いヒートトリートメントしてみたんです。この工程は圧延を終えたチタンを焼き鈍す為に800度の高温の中をアルゴンガスと一緒に通すんです。この時アルゴンガスがないと金属が真っ黒に変化してしまい売り物にならなくなってしまうんです。その後ジャズギタリストの方を紹介され改めてサドルを試してもらうことになったんです。その時3種類の硬さの物を持っていったんです。一つはハードタイプ、これは始めの物と同じで圧延だけの物です。二つ目はミディアムこれは圧延処理の後にヒートトリートメントをして金属を安定化させた後にまた少し圧延を加えた物です。そして3つ目が圧延処理とヒートトリートメントのみのソフトタイプ。結局はこのソフトタイプが気に入られ現在販売している物はこれと同じ物です。その後、池部楽器の額田さんと言うリペアーマンの方と知り合い非常に気に入ってもらい、彼のコラムで紹介して頂いてそれから少しずつ知られるようになってきたんですよ。

圧延機器

PCI) そうですか、始めは大変だったんですね。でも意外と早いうちから海外進出されてますよね。

増田)知り合いの勧めでNAMM ショーに行って色々なメーカーやパーツ屋さんのブースに紹介して歩いたんです。この時はびっくりしました。だって有名ミュージシャンが沢山来ていて声をかけるとちゃんと話を聞いてくれるんです。しかも結構興味を示してくれて。その時オールパーツの社長が気に入ってくれてオーダーをくれることになったんです。それからは毎年ブースを出してます。面白いことに、韓国のディーラーや日本のメーカーとの取引もNAMMショーからなんです。

Photo by Taro Yoshida (Copyright 2003 Taro Yoshida)

2003年 NAMMショーブースにて、自ら積極的に製品のアピールをする増田社長。

PCI)ところで3種類の硬さの違うサドルを作ったといっていましたが、現在販売されている物の硬さはフェンダーやギブソンのサドルに比べて硬いのでしょうか? それとも柔らかいんでしょうか? これも感覚的な物になってしまうかと思うのですが?

増田)硬さを計る単位をビッカスと言います。どうやって硬さを計るかというと、計測器の下に四角錐のダイヤの足が出ていて、これで下に置いた金属に10キロとか20キロとか一定の圧力をかけていって付いた傷の対角線の長さを測って硬さを決めるんです。柔らかい金属なら四角い形が大きく対角線も長く、逆に硬い金属なら傷が小さく四角の対角線も短くなるわけです。そこでギブソン等の既存のブラスやダイキャスト製のサドルの硬さを計ると80ビッカスぐらい、フェンダーのプレスサドルで170ビッカスぐらい、チタンサドルのハードタイプが260から240ビッカス、ミディアムタイプが210から200ビッカス、そしていちばん評判の良かったソフトタイプが160から180ビッカスだったんです。それ以来160から180ビッカスを標準にして製造しています。これはチタンとしては最も柔らかい状態なんです。

PCI) チタンと言う素材は摩擦にも強いんですよね? 加工が難しいと聞きますが? やはり硬いから削りにくいんでしょうか?

増田)切削加工する上では硬い方が加工しやすいんです。ただチタンの場合ブラスやダイキャストに比べて加工しにくいのは確かです。これは金属の特性ですね。チタンは硬いから加工しにくいというのは間違いです。チタンも柔らかい物よりは硬いもののほうが切削しやすいんですよ。逆に摩耗しにくい金属なのでサドルには適していると思います。

チタン熱処理設備

PCI) ところでこれもチタンの特性かと思うのですが、音が非常にクリーンで輪郭がはっきりしますよね。これを好きな人も多いとは思うのですが、逆に昔ながらのビンテージのスティールのものやブラスのサドルの音が好きという人と別れると思うのですが?

増田)それはそれぞれの好みで選んでもらうしかないですね。私もチタンが全てのプレイヤーにとって最高だとは思っていません。10人のプレイヤーがいれば好みの音も10有るということで。ただ、このチタンの特性を生かした上でもう少し音に変化を付けられないかと思って今色々と試しているところです。チタンのグレードは、日本の企画では3つに別れているんですがグレード1は一番純度が高いんです。これがグレード2とか3になると鉄等の不純物が混じってきて硬さがまします。この不純物の混じり具合で音に変化が出るのではと思って研究中です。また、チタン合金と言ってアルミニウムを混ぜた物やバナジウムを混ぜた物など色々あるのでこういった物の特性も調べてみようと思ってます。例えばギターには向かなくてもベースには適していると言う物も有ると思うので。以前バダスのベースブリッジと同じような物を作って、あるメーカーのベースで試してもらったときにそこの技術の人は、「いいけどすっきりしすぎるね。」ということだったんですが、チューブの角野さんが気に入って今でも使ってくれてるんです。結局個人の好みとギターやベースのそれぞれの個体差といかにマッチするかですよね。

PCI) そうですね。同じメーカーの同じモデルでも重さやネックの硬さなどで音が違ったりするので、ギターによってブラスが合っている物もあるし、チタンが合っている物もあると思うんです。今まで素材としての選択肢が少なかったところへ新たな選択肢が増えたということですね。

増田)そうです。これまでの素材で満足の行く音が得られなかった人にぜひ試してもらいたいですね。使ってくれた人が喜んでくれるのが一番の励みになるんです。

PCI) 国内のミュージシャンはもとより海外のトッププレイヤーにも高い評価を受けているようですが、どのようなミュージシャンが使用しているのでしょう。

増田)国内では是方さん、米川さん、シアターブルックの中条さん、チューブの角野さん、海外ではLAのスタジオプレイヤーのマイケルトンプソンティムピアス、この二人はものすごく気に入ってくれて彼らのギターのサドルをほとんどチタンサドルに替えてくれました。それとジョンサーの紹介でレブビーチ等が使用しています。またプレイヤーではありませんがピックアップメーカーのジョーバーデンが気に入ってくれてジョーペリーに紹介してくれて今試してもらっているところです。

Photo by Taro Yoshida (Copyright 2003 Taro Yoshida)

2003年 NAMMショーブースにて

左からJoe Barden, 増田社長、Michael DeTemple

PCI)そうですか。今後の製品にも期待してます。今日は長い時間ありがとうございました。