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2008年4月18日

第10回 訴えるもの

僕の親しい友達で映画プロデューサーの卵な人がいます。 卵、というよりヒヨコ、といった方がいいでしょうか。 すでにインディー映画の製作に何本も関わってますので。

彼女は最初は映画監督を目指していたんですね。 それで映画監督になりたい人はみなそうするように、短編映画を幾つかつくってみたんです。 自分の脚本で。 また自力で脚本コンテストなども開催して、脚本を書き、編集し、よいものを見つける方法も身につけたわけです。

でも彼女は数年そうやって頑張ってみた挙げ句、今ではプロデューサーとしてのキャリアに集中することにしました。 音楽業界でいうとマネージャーとかに似てますね。 要するに映画製作のプロジェクトを立ち上げ、その過程のビジネスをまかなう役割です。 が、監督ではないので実際の作品の製作には直接関与しません。 人とお金を題材を集めた後は、監督が思うような作品ができるようはからってあげる、そういう縁の下の力持ち的な役割です。

彼女は監督として必要な能力は全て持っていました。 統率力、ビジョン、良いものを見抜く力。 そんな彼女がなぜ監督として自分の創りたい作品を発表するのを辞めたのか。

「私には、どうしてもこれだけは私が世界に語らなければ、という話がない」

だからだそうです。

映画業界の話をもう一つすると、あるセミナーにいった時に聞いた話ですが、成功する映画監督の中には、えてして自分の作品を創るためにかなり危なっかしいことをする人が多いとか。 例えば、自分の家や車を担保にしてお金を借りて、クレジットカードも全部使い切って、その上おばあさんの家まで担保にして製作資金を調達した人がいたとか。 後に有名な監督になった人ですが(どの人だった覚えてないですが)。

要するに言いたいのは、厳しい映画業界で監督として成功するには、おばあさんの家を担保にするくらい「これは自分が世間に出してあげないといけない」という信念を持ち、またそう思える題材を創るか見つけるかしなくてはいけない、そういうことですね。

もちろんこれはミュージシャンにも同じことがいえます。

オリジナルをやって成功したいと思う人はごまんといるわけですけど、あなたは自分の作品にどこまで信念を持っていますか? 誰それに認められたからとか、レコード契約したからとか、そういう外部からの何らかの認定に頼っているんではなくて、誰にも言われなくても、逆に他の人には良さをわかってもらえなくても、それでも「自分はこの音楽をしなくちゃいけない!」と信じているものがありますか?

そう思えないんでしたら、オリジナルやって成功する夢はあきらめましょう。 あなたには向いてないです。 ギターの先生になるとか、バンドのマネージメントをやるとか、上記のプロデューサーのように関連事業に入っても充分、それどころか素晴らしい人生を送れます。

オリジナルやって成功する人、特に長続きする人がが少ないのは、そういう信念を持ってやっている人が実はそんなに多くないからですね。 才能ではなくて、信念が問題なんです。

例え誰にもみいだされなくても、内側から自然にわいて来る情熱。 これを感じられるかどうか、自分に正直になって問いただしてみましょう。

ではまた次回に。

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投稿者 ari : 22:12

2008年4月 4日

第9回 2本の道

まず最初にお知らせ。

僕のデビューアルバムが、アメリカのno.1インディーCD販売サイト、CDbaby.comのJapanese Rock部門の売り上げで現在5位にチャートイン! それを記念して現在CD、mp3とも$1値下げのセールを4月いっぱいやります。 日本からでもオーダーできますので是非この機会にどうぞ。 

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さて、先日テキサス時代からの知り合いから近況のメールがきました。 彼はギターの先生として生計を立てている30代半ばの人で、3年ほど前に知り合ったんですが、アルバムを創るんで曲を書いていると言っていました。

もうアルバム出たのかな、と思いメールを読んでみると、それどころかまだ曲作りの段階を出ていないというのです。 何でも彼は(どうやったのか知らないんですけど)業界でも大物もプロデューサーの耳を掴んで創った曲のデモを聴いてもらったそうです。 でも本人も自信があったにも関わらず「悪くはないけど、良くもない」というような返事が返ってきたんですね。 彼としては誰か著名なプロデューサーに認めてもらい、アルバムを一緒に創ろうと言ってほしいようです。 そんなことが2、3回繰り返されて、その都度奮起してもっといい曲を書こうと努力しているうちに3年かかってしまったようです。

あきらめないところはいいですが、しかし完璧な曲、業界の大物に認めてもらえる曲を追い求めるあまりまだ作品の一つも世間に発表してないとは、とちょっとあきれてしまいました。

もう一人、知人から聞いて知った話ですが、ニューヨークを拠点として活動しているJonathan Coultonというシンガーソングライターがいます。 彼は2005年9月、プログラマーとしての仕事を辞めて妻の稼ぎに依存し、音楽活動に専念することに。 最初は毎週一曲というペースでブログからmp3で無料で曲を配布し、2年弱たった2007年7月には3000から5000ドルの月収を得るようになったそうです。 2008年現在はロンドンでのギグも敢行し、ますます活動が拡大しています。 ちなみに彼はどこともレコード契約してなく(別にしたくないということではないようですが)完全に自費出版での事業をやってるようです。

僕は実はまだこの人の曲を聴いたことがないんですが(もう一週一曲の無料配布はやってないようです)この話を聞いたときは「これこそインターネット時代の音楽業界のビジネスモデルかもしれない」と思ったものです。 彼のサイトに行ってみてちょっとびっくりしたのは、サイトに広告を載せて収入を得ているのかなと思ったら少なくとも今はそんなことなくて、基本的には無料でも得ることができる曲の有料販売、高音質のmp3とCD、そしてあとは(今では)ギグでの収入と寄付金でやっているようです。 それだけでこの短期間でビジネスを拡大できるようになるとは全く驚きです。 

さて、最初の人ですが、例えば来年彼が念願の大物プロデューサーに認められてすごいスタジオでアルバムを創ったとしましょう。 でもその後そのアルバムが制作費に似合う成功を収めるとは保証できないどころか、その可能性もあまり頼りあるものでもありません。 また仮に幸運にもレコード契約してヒットを飛ばしたとしても、それを続けるのもまた至難の業です。

後者、Jonathanの場合はいわゆる数曲の「ヒット」に依存している事業ではないので、彼が既存の音楽性を突然大幅に変化させない限りは活動は確実に拡大するでしょう。 彼のファンは彼が彼という人間で、彼にしかできない音楽を聴きにくるわけですから。

音楽をやりたいという人には2種類いて、片方はいわゆる「スター」になりたいと思う人、もう片方は音楽を創る「職人」になりたいと思う人ではないかと思うんです。 どちらを追求するかは個人の自由ですが、両者は必ずしも同じでないこと、これだけは理解していた方がいいと思います。 

僕はスターになること自体は反対ではないですが、まず後者が最優先ですね。(笑) 自分の好きな音楽を作ってそれを糧に生きていく。 道が見えてきました。


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投稿者 ari : 06:44