PCI USA

PCI - Prosound Communications Inc

menu

佐野ケンジ インタビュー

<<カラパナや安室奈美恵のバンドのベーシストとして、またプロデューサーとして活躍中の佐野健二さんに近況、大変面 白い話をお聞きしました。>>

PCI:もうロスに来られて何年になるんですか?

ケンジ:28年になります。 アメリカの大学を出て、ずっとロスにいます。 仕事は今日本とアメリカを行ったり来たり。 月に一回は日本に行ってるんですよ。 

PCI:カラパナに入るきっかけを教えて下さい。

ケンジ:俺とハワイのマウイから来てるヤツが大学行ってる時にバンドやってて、その時にマッキーがクビになって一緒にやることになったんですよ。 それからはマウイに帰って、オリジナルのカラパナがパンクした時に俺たちがカラパナをやることになったんですよ。 俺たちスッゲー受けて、それで本格的にハワイとロスで活動開始したんですよ。 

PCI:それはいつのことですか?

ケンジ:1980年だったね。 

PCI:活動は主にハワイだったんですか?

ケンジ:そうです。 でもロスでもゴールデンベアっていうとこでやってたんですよ、古い話なんですが。 ボブディランとかがやったライブハウスなんですけど。 そこで5日間ソールドアウトだったんです。 そんでこれ行けるなって感じで、あいつらしょっちゅうケンカしてたんで、もうちゃんとアルバム作ってツアーをやろうってことにしたんですよ。 まさかそれから18年も続けるとは思わなかった。 信じられない。 今色んなとこから話が来るんですけど、カラパナのメンバーみんな結構ほかでも忙しいんです。 ゲイロードってヤツはスタジオのマネージャーやってるし、リードギターのヤツはエンジニアの仕事が忙しいし。 

PCI:皆さんロスに見えるんですか?

ケンジ:イヤイヤみんなハワイ。 僕とマイケルパウロだけロス。 マイケルはずっとアルジャローと10年くらいやってて、ソロも6枚目。 WAVEなんかではしょっちゅうかかってますよ。 

PCIジェイ・グレイドンとの付き合いはいつ頃からなんですか?

ケンジ:僕がカラパナのプロデュースしたり、日本のアーティストをプロデュースし始めた頃に、彼の家のあのスタジオを使ったんですよ。 使いやすいし、ニーブの卓が好きだったんですよ。 彼、ニーブのいい卓持ってて、それで知り合って、意気投合したって感じで。 んで〜 彼レイジーなんですよ、凄いね。 頑固だし、レイジーだし。 僕がしょっちゅうセッションやってた頃、「何でジェイは演奏しないんだ?最近??」みんな僕に言ってきて。 僕が友達だと言うことで。 やりたくないんじゃないかなぁ〜 って話してた時に、7、8年前かなぁ〜 ツアーやろうやって言ったんですよ。 で、やろうやろうってことになったんですよ。 でも、エアープレイってのはやらない。 ジェイグレイドンのコンセプト版をやろうと。 だから、ギター弾きまくりじゃなくて、彼の書いた曲とかでいいメンバー集めてのコンセプト版をやろうということになったんです。 

PCI:そうですか。 日本もジェイと一緒に行かれてますよね。

ケンジ:そう、一緒にツアー、日本とヨーロッパ2回やりました。 たいへんですよ、彼とツアー行くの。 わっがまま言い倒すから! ほんと、変人ですね。 初っぱなのツアーの時もステージの上に洗面 器が欲しいって言うんですよ。 ソロやる前に手、洗わないといけないんですよ(笑) 

PCI:演奏中にステージの上で手を洗うんですか??

ケンジ:そう、ステージで。 「だからおまえそんなことできる訳ねぇ〜だろ!」って。  ステージに水道なんかないんだし、しかたないから洗面 器とタオル置いといたんですよ。 で、ステージの上でソロの前になると手を洗ってんだよ。 

PCI:ジェイはもともとライブの人じゃないんですかねぇ〜?

ケンジ:そうなんですよ。 セッションマンだから、まぁー70年代のセッションマンのギタリストと言えばジェイグレイドンでしょう? もうプレイは凄いですよ。 ただ、ツアーに出るのは少なく、まぁ〜たいへんだったんですよ。 そして、なんでか皆僕に文句を言ってくるんですよ。 「I'm just a bass player!」って言っても、カラパナの時もバンド仕切ってたし、ジェイの友達ということで、周りの人みんなの文句が僕に集中するんですよ。 セッションなんかも彼全然やりたがらなかったんですけど、無理やりこう「このプロジェクトでやれ!」とか言って、やり始めたんですよ。 90年代の前半の頃ですね。

PCI:ということは、ジェイが活躍した後、しばらく休んでいたのを90年代前半に引っ張り出した張本人はケンジさんなんですね?

ケンジ:そうです。 彼に言われますよ。 「おまえのお陰だけどまたおまえのせいでもある!」って。 (笑) ツアーの時のビデオがあると思うんで、今度お見せしますよ。 

PCI:ケンジさんは学校はアメリカで出られたんですね?

ケンジ:そうです。大学はこっちです。 東京のアメリカンスクールの高校を卒業して、それからアメリカに行ったんです。 名古屋の守山のアメリカンスクールにも3年行ってたんですよ。

PCI:どうしてアメリカンスクールだったんですか?

ケンジ:親父がイケてた人で、俺がまだ幼稚園の頃に、「日本人は英語しゃべれるのがええねん」言うて、神戸でアメリカンスクールへ入れたんですよ。 日本人なんていないッスよそんなとこ。

PCI:帰国子女ならいざ知らず、その時代に純粋な日本人がアメリカンスクールに行くのは珍しかったんじゃないですか?

ケンジ:ええもうばりばりの日本人ですから。 だから嬉しかったですね。 ひんしゅくもよく買ったんですけど。 特に名古屋で、そういうの多いんで。 近所の子供たちが変な外人って俺をイジメるんですよ。 「バカヤロ〜 日本人だ!!」ってよく言いましたよ。 土曜日学校行ってないでしょ、そして、夏休み3カ月でしょ、遊びに行く連れはみんな外人でしょ。 そう友達はみんな外人ばっかりでした。 近所の子供はみんな俺のこと見てるんですよ。 んで、いつもケンカ売られるんですよ。 その頃の名古屋はすごかったですよ。 千種の覚王山に住んでたんですけど、お祭りがあって僕が行くじゃないですか。 近所の悪ガキに囲まれるんですよ。 特に女の子たちと一緒にいると。 「Stay out!」って女の子たちに言って、それからケンカですよ。 最悪ですよ、ガキの頃は。

PCI:名古屋には何年生の頃住んでたんですか?

ケンジ:7、8、9年生は名古屋でした。 そして東京で10、11、12年と学校行ったんです。 東京ではアグネスチャンと同級生で、南沙織の一つ上。 それで、その後野球でアメリカの大学に来たんですよ。 で、そこそこ野球できたんですけど、俺の行った大学ってのが野球で有名な大学なんですよ。 ラバーン大学、70年代ではNAIAでナンバーワンになったんです。 LA から30から40分のとこなんですけど。 そして、そのうちサーフィンとか音楽の方が楽しくなっちゃって。 

PCI:楽器を引き始めたのは何歳の時ですか?

ケンジ:ビートルズを見てすぐですよ。 ですから、10歳から11歳の時。 ちなみに今45です。 

PCI:最初からベースを始めたんですか?

ケンジ:いや、違います。 最初、ビートルズ見て「俺やりたい」って感じになって、その頃ギターとかベースとかって楽器屋行ったらアコギしかなくって、エレクトリックギターっていうのはデパートで買うんですよ。 で、大丸行って、ベースとかギターとか分からず、とにかくエレキを買ったんですよ。 でも何も弾けずに、ギャンギャンやってたんですよ。 そしたら学校でバンドやってたヤツが、「おまえ、ギター持っとんやったら持ってこいや」って言ったんですよ。

PCI:それはアメリカ人なんですか?

ケンジ:いや、中国人のハーフ。 初めて話しかけてきて、3っつくらい年上のヤツだったな。 そして、そいつがアメリカ人とやってたバンドに入れてもらったんですよ。 でもその頃はベンチャーズとかやってましたよ。 で、バンドずっとやってたんですけど、あまり真剣じゃなかったですよね。 中学、高校でも、ダンスパーティーとかでやるくらいで、ちょっと女の子引っ掛けて「かっこいいだろ〜」ってな感じで。 そんな程度だったんです。 

PCI:横浜の同じ世代の方たちで、ゴールデンカップスとかあの辺のバンドも中華街絡みのバンドでしたよね。 

ケンジ:ああ、エディーとかね。 エディーなんてメチャクチャ上手かったですから、おわぁ〜〜って見てたんですよ。 ベースのやつがいたでしょ? ルイスってやつが。 チャーなんかともやってた。 あいつが飛び抜けて上手くて、ビビってましたよ。 俺より年は一つか二つ上のはずですよ。 

PCI:ベースを始めたのはアメリカに来てからですか?

ケンジ:いや、あのねぇ〜 話すると長くなるんですけど、親父がディック峰さんとすげぇ〜親友だったんですよ。 ディック峰さんの息子で、ノブヒロさんっていう人がいて、シャープファイブっていうバンドのリードギターやってた峰ノブヒロさんっていうんですけど。 メッチャ上手いんですよ、その人も。 その人がシャープファイブやってた時に、僕、居候してたんですよ。 そしてある夏、「ケンジ、おまえ一緒に仕事やろうよ〜」って言われて、で、一応やらせてもらったんですよ。 で、ちょっとベース弾いてみたんです。 そしたらノブヒロさんが、「おまえベースやった方がいいよ」 「あっ、そう?」って感じで。 その時は特に何も思わなかったんですけど、こっちの大学に来てから、ハワイのやつらとバンドやった時に、5人全員ギターなんですよ。 「なんだよこれ? じゃ〜分かったよ。 俺がベースやるよ。」 それでベースやることになったんですよ。 ベースは難しいって分かってたんですけど。 ドラムなしの全員ギターですよ、うるさいうるさい。 二人がエレキ、一人が12弦、一人がアコギ、そして僕がベースですよ。 70年前半ですら、フォークロックみたいな感じでした。 そして後にカラパナが現れて、一緒にやる様になったんです。 

PCI:てっきりハワイで生まれ育った、日系のアメリカ人かな?と思ってました。

ケンジ:よくそう言われるんですよ。 日本人の方のインタビューの時に、皆英語で聞いてくるんですよ。 英語で聞かれたから、英語の方がいいのかなぁと思って、英語で答えるんです。 途中で「Do you speak Japanese?」って聞くもんだから、「全然しゃべれますよ」って言うとびっくりしますよ。(笑) 「Where did you learn Japanese?」って聞くもんだから、「いやいや、僕日本人なんですよ」っていうと、「は?」ってな具合。 もっとひどいのはね、バウワウって覚えてます? そのバンドにも、佐野ケンジっていうベーシストがいたんです。 同姓同名。 ヨーロッパなんか行くと、すっげぇ詳しいやついっぱいいるんですよ。 で、聞きにくるんですよ。 「おまえはどっちなんだ?」って。 カラパナでやってる佐野ケンジのディスコグラフィー指差して「おまえコレなのか?」って。 そしてバウワウのディスコグラフィー持ってきて、「おまえこっちにも出てるのか?」って。

PCI:バウワウの佐野ケンジさんは今、どうしてるんですかねぇ?

ケンジ:分かんないんですよ。 どうされているか知りたいですね。

PCI:僕らの知り合いでも、こっちへ来て頑張っている連中結構いるんですけど、意外と日本のメディアってあんまり取り上げないですよね。

ケンジ:そうですね。 一人メッチャ上手い人いますよ、ギターで。 トシってやつ。 

PCI:ええ。我々ともたいへん仲がいいんです。

ケンジ:あっ、そうなんですか? 

PCI:あと、尾崎ジンシさんって言って、ケイコマツイさんのバンドでずっとギターを弾いてる人とか、仲いいんですけど、結構彼なんか日本に行っても紹介してるんですけど。 あまり音楽雑誌等で取り上げられないんです。

ケンジ:僕は思うんですけど、大学出てすぐすっげぇ〜芸能界からよく呼ばれてたんですよ。 「おまえみたいなやつ日本にいないから」って。 それが一番いやなんですよ、日本の芸能界の。 別 に上手くもない、何にもない、ただアメリカに居たと言うだけで、えらい?ってな感じで。 そんな意味ないことをやるってのがほんと嫌いなんですよ。 こっちでなんかやって、ツアーで来日する形で、それだったら僕帰る気するけど、って言ってるんですよ。 だから、8年間帰れなかったです。 成果 でるまで。 大学行って、コツコツやってて、そしてカラパナ再結成してアルバム出して、ロスとハワイでツアーやって、で、日本でツアー決まった時に、日本に久し振りに帰ったんですよ。 

PCI:変な色付けしないで、アメリカで頑張ってみえる日本人を我々としては応援し、紹介して行きたいです。 そういう人たちをもっとアピールできれば、今の世代の日本人も、もっとこっちに出てこれると思うんじゃないですかね。

ケンジ:ほんと、そうですねぇ。

PCI:今のメインの仕事はプロデュース関係ですか?

ケンジ:今は、日本で安室奈美恵のミュージックディレクターやってるんで、ツアーと、ボーカルディレクションを仕切っているんですよ。 あと、カラパナと。 この2年間プロデュースの話来てるんですけど、タイミングが全然合わないんですよ。 話の多くが夏と春なんですよね。 春、夏と俺ツアーに出てるんですよ。 「だから秋ぐらいになんか持ってきてよ〜」って言ってるんです。 秋ぐらいには奈美恵ちゃんのレコーディングとか、俺たちのレコーディングやってるんで。 来年は2、3枚はやるつもりなんですけどね。 

PCI:ベースはBOSSAを使って見えるんですか?

ケンジ:BOSSAと、レコーディングでは、メインがBOSSAPベースも一本使ってるんですよ。 ファンキーなのはそれでやってるんですよ。 

PCIBOSSA といえば、瀬戸崎さんとお知り合いだったんですか?
  

ケンジ:そうなんですよ。 大阪に小さいスタジオがあって、名前貸してるって言ったら大袈裟だけど、色々そこにノウハウを教えてたんですよ。 その時にセトやんと会って、「これ使うてくれへんかぁ〜」って言われて。 それで気に入って、こうしてああしてって、僕のモデルを作ってくれたんですよ。 ええやつでねぇ〜 職人っていうか。 

PCI:安室奈美恵さんのプロデュースは小室さんと共同でやって見えるんですか?

ケンジ:プロデューサーはTKです。 さっき言いました様にディレクションとかは僕がやってコーラスアレンジとかもやってます。 TKはみんなが思っているよりすごいですよ。 よく皆TKのこと誤解しているみたいですけど。 彼のダンスミュージック流行ったから、彼はほんとはピアノ弾かないんじゃないかとかさ。 ひどいこと言う人いるよね。 彼はちゃんと弾くし、違うアングルでプロデュースしてるんですね。 典型的なプロデュースの仕方じゃなくてね。 だからすごいおもしろいですよ。 彼は頭の中の自分のコンセプトをしっかり持って仕事をやるから、最終的にできるものはいいものになるんですよ。 だけど彼の場合、可哀相に、仕事の量 が多過ぎるんですよ。 本当ねえ、どう言ったらいいかな。 やっぱり誰かが売れると日本の業界ってウワーって集まるじゃないですか。 それもあれもこれもじゃないですか。 TKの場合、人がいいから、「いいですよ。」って言っちゃうから、で量 が増えちゃうんですよ。 すごいですよ。 もう仕事の量中途半端じゃないですよ。 日本のレコード会社の悪いとこって、発売日を先に決めるじゃないですか。 こっちでは信じられないことですよね。 アーティストにここまでに仕事やれっとか言うわけでしょ。 ここまでに曲書けとか。 信じられないですよね。 クリエイティブな仕事なんですから。 でもそれをやらなきゃいけないTKだから、どっちかと言うと、すっげえ名曲もあれば、急いで作らされた曲もあるじゃないですか。 だからそういうのだけをピックアップして、批判されるのは可哀相だよね。 判ってない人多いよね、彼がどういう状況に置かれているのか。 判らずにTKをあーだこーだ批判する業界の人は、ちょっと不公平だよね。

PCI 日本にいたら集中して仕事できないんで、TKはこちらにスタジオ持ったんでしょうね?

ケンジ:ホントそうですよ。 一時期凄かったですよ。 初めてグローブと奈美恵ちゃんやり始めた頃なんか、TKとミーティングやるってことでスタジオ行くでしょ。 外に日本から来た人が20人位 会いたいって待ってるんですよ。 ちょっとでもいいから時間くれって。 こっちは仕事してるって言ってるのに。 その日本から来た人達、結局3日間待ってましたよ。 ほんと、おかしな状況でしたよね。

PCI:グローブの頃からずっとTKとは仕事されてたんですね?

ケンジ:一番最初は、グローブの方はベースを弾いてくれって言われたんです。 それからケイコのボーカルディレクションやってくれってことになって、それでマークのラップを付けたりとかすることになったんです。 奈美恵ちゃんの仕事もほぼ同時にやり始めました。 

PCI:小室さんは年の割りには活動長いですよね。 アノネノネのバックとかもやってみえたんですよね。

ケンジ:長いですよ。桑名のバックもやってたんですよ。 今、彼の右腕で俺の親友でもあるきみちゃん、佐藤っていう人がいるんですけど、彼は桑名のマネージャーやってたんですよ。 そっからの知り合いなんですね。 だから信頼しきってて。 俺が下積みの頃、ハリウッドのギターセンターのマネージャーやってた頃、その佐藤っていう人はSushi on Sunsetで寿司を握ってたんですよ。 そこで知り合ったんですよ。 

PCI:今は年に1回位 は日本へ行ってみえるんですか?

ケンジ:月に1回ですよ。年に2-3ヶ月は奈美恵ちゃんのツアーがありますし。 

PCI:バンマスですか?

ケンジ:そうです。 ミュージックディレクターなんで、彼女と演出家のサムが曲を選ぶじゃないですか、そのアレンジとか、こっちでバンドのリハーサルをもう演ってくんですよ。 だから我々が日本へ行った時には彼女の思い通 りの音が大体もうできてるんですよ。 だからマルチとか、弾けない音とかあるじゃないですか、そういう音だけを録って流して、後俺達が弾くんです。 だけど俺達大体全部弾いてますよ。 奈美恵ちゃんも全部歌ってますよ。 こっちでは信じられないこと。 ジャネットジャクソンでもマドンナでも全部歌わないですよ。 だって踊るじゃないですか。 ジャネットの場合は3分の1は口パクですよ。 激しい踊りのやつは特に。 マドンナもそうだし。 ツアー何日も続くんですが、奈美恵ちゃんは全部踊って歌ってるんですよ。 これもまた日本の業界の変な話なんですけど、安室奈美恵っていうと芸能界でアイドルっぽい形で見られているじゃないですか。 全然違うんですよ。 典型的なアイドルだったら俺達一緒にやんないですけど、奈美恵ちゃんの場合は、歌真剣に取り組んでるし、頑張り屋だし、だからバックのメンバーも凄いですよ。 だからちょっと親父みたいな言い方だけど、俺達彼女が成長していくのを見るのがすげえ楽しみなんですよ。 初っぱなやった頃は、暗記したまま歌ってるって感じだったけど、その次やった時には全然うまくなってたし、そして、俺達のやってる事を言葉とかで理解できなくても、何かこれがいいとか何か違うとか言ってくる様になったんで、これは判ってんだなって思った。 タメを覚えた時なんか、全然ノリが違うんで。 すごいこれから楽しみですよ。 

PCI:5弦ベースを弾いてみえるんですか?

ケンジ:そうですね。 奈美恵ちゃんのバックでは5弦が多いですね。 本当は4弦で気楽に弾いてたいんですけど、TKの書いた曲やコンピュータとかキーボードとかで作られた曲は、4弦だと音が足らないですよ。 トータルで聞いた時にやっぱり5弦で弾いてないとしっくり来ないんですよ。 例えばDの音でも、シンセやギターの音と一緒になった時に、5弦でのDでないとトータルの音がちゃんと出てこない。 4弦ベースで弾くのは1曲だけかな。

PCI:プレイヤーとして5弦ベースの使い勝手は如何ですか?

ケンジ:7年前まで、5弦なんてねえだろ、ベースは4弦だって言ってたんですよ。 でもいざセッションなんかで、ローDが要るんで、じゃって弾き始めたんですよ。 最初はすげえ気色悪いんですよ。 弾いてて。 だけど慣れたら、もうやばいですよ。 今じゃ無いと気色悪いって感じですよ。 だけど昔の曲やったりとか、スラップしてこう遊んでいる時なんかは、4弦の方が全然弾き易いですよね。 それと4弦と5弦では鳴りが違いますね。 例えば開放弦でEをスラップした時にでも、4弦と5弦では鳴りが随分違うんですよ。 何であんなに違うんですかね。 トータル的なテンションが違うからでしょうかね。

PCI:日本での活動は安室奈美恵さんとの仕事が主ですか?

ケンジ:ここ4、5年はそうですね。 

PCI: 日本でも最近おもしろいバンドが多く出てくる様になりましたね。

ケンジ:ほんとにねえ。 変わったことやってるバンド、それでちゃんとしてて音楽的にも成り立っているラブサイケデリックっていうのとか。 めっちゃくちゃおもしろいですよ。 音の作りもおもしろいですし。 

PCI: ケンジさんはこちらでもツアーに出られたりとかするのでしょうが、最近ギタリストなんかでこちらで若手でおもしろい方はいますか?

ケンジ:セッションマンだと、マイケルトンプソンとか、ティムピアスとかランドゥーしかいないね。 今ねロスでは若手があまりいないんですよ。 若手はやっぱりイーストコースとです。 こっちではもうセッションやってる人間が押さえちゃってるじゃないですか。 そして映画やってる人間も押さえちゃってるし。 ライブとかツアーのリハとかオーディションで入り込むか、やっぱりイーストコースト行って、入り込むしかないんじゃないかな。 イーストコーストにはイーストコーストのセッションマンとかいるけど、もう少し若手が入りやすいんじゃないかな。 

PCI: 今後も日本での仕事が主になりそうですか?

ケンジ:いや元に戻したいですね。 どっちかと言うと。 80年代はアメリカ80、日本20だったんですよ。 それが今は全く逆で日本80、アメリカ20なんですよ。 せめて、アメリカ60、日本40位 に。 そうでないと僕のやってきたスタンスと意味がなくなってしまうからね。 日本人がこっちでやってるじゃなくて、1ミュージシャンとしてこん中で弾いてるという位 置をキープしたいし。 今皆よくしてくれて、仕事があるのは嬉しいんですけど、でもなんか違うんですよ。 バランスが難しいですね。 自分のやりたいこと、プロデュースとかもっとやりたいんですけどね。

プロデュースと言えば、オバタミナコって子プロデュースしてたんですよ。 英語でR&B歌わしてて、今日本で流行っていることを4_5年前に始めて、3枚アルバム出したんですよ。 プロの人にはすっげえ受けたですよ。 アドリブなんか読んでる人にはすっげえ受けて、「ベストアルバム」なんか取ったんですけど、3年早かったんです。 今出してればすごいでしょう。 

PCI:ティナとかバードとか?

ケンジ:バードもうまいし、ティナなんてすっげえ歌唱力あるしね。小柳はちょっと背伸びしてるとこあるね、 歌い方にちょっと無理があるね、だけどうまいですけど。 ティナは本当にうまい! 一番最初にテレビ出た時に、奈美恵ちゃんと一緒に居たんですけど、ものすごく上手いなって感心したんですよ。 親父さんがサックスプレイヤーだってね。 彼女の所属する会社がマーケティングうまくないんで伸び悩むんじゃないかなと思っていたら、現にその通 りになったね。

PCI:みんな知ってるけどメジャーになりきれないって感じですね。

ケンジ:そうなんですよね。 ちょっとスーダラ。 やっぱりプロモーションの仕方ですね。 特に日本はそうじゃないですか。 

PCI:日本人で海外出てきてやっていける様なミュージシャンはいませんかね?

ケンジ:いますよ。 沼沢タカさんって知ってます? 彼は最高ですよ。 彼のドラムはどこ行っても通 用しますよ。

PCI: はい、シアターブルックと仲いいんですが、タカさん今手伝ってて、寝る間もないほど忙しいらしいです。

ケンジ:ビジネスのストラクチャーが違うのでこちらではやりにくいかもしれないけど、一番の壁は英語でしょうね。 「上を向いて歩こう」みたいなよっぽどのメロディーでないと、やっぱりこっちでは、全世界でブレークするには英語でないと難しいでしょうね。 やっぱりラテンでブレークした連中もまず英語で始めてるね。 ただ暗記して覚えた英語じゃなくて、伝わる英語ですよ。 日本ではさっき言ったラブサイケデリックとかおもしろいコンセプトのバンドも出てきているし、世界で出て来ておかしくないですよ。 日本でもMTVの様に長い目でミュージシャンの音楽とコンセプトが発表できる様なメディアができるといいね。 誰か日本でMTVやれよって言ってるんですがね。 日本のメディアの30代のクリエイティブな人達の考えが通 る様になれば、日本もすこしずつ変わっていくんでしょうね。 

PCI: 音楽業界だけでなく日本全体が今変化の時期ですね。

ケンジ: そう。でも音楽に関しては今日本ていい国だとも思いますよ。 ボサノバとかジャズとか何でも聴けるじゃないですか。 ラジオ聴いてても偏らずに満遍なくいろんなもの聴けるでしょ。 それは悪いかもしれないけど、大変いいところでもあるよね。 知識は広まるから。 そして今色んな音楽が流行ってて、リスナーもこれだけって決めずに、これ大好き、だけどこっちも好きってな具合になれる。 だからミュージシャンとかこっち側から見たらすごくいいマーケットなんですよね。 こっちみたいに、これが流行ったから、スタイル変えてこれを弾かなくちゃ、みたいにならなくてもいいかもしれない。 自分でこれだっていうスタイルを持てば、ちゃんと聴いてくれる人ができるんじゃないかな。

PCI: その他に来年の活動で考えてみえることありますか?

ケンジ:ウエストコーストオールスターズみたいなバンドでジェイグレイドンと一緒に大阪のブルーノートあたりへツアーへ行くってのも考えてますよ。

PCI: それは喜ぶファン多いでしょうね。

ケンジ:お客さん入ると思うんですよ。 特に大阪はAORのファンすっげえ多いんですよ。 だから、ジェイのツアーでブルーノートやるって言えば、これは金銭的なものも無理だし、ジェイももう我がまま言い過ぎるから(笑)、だから俺が逆に言ったんですよ。 俺のGIGとして、お前、ギタリストとして来てくれる?って。 「Of Course!」 って言ってくれましたよ。 だから、やるとしたらそういう感じですよ。 こっちのトップのバンドメンバーを連れて行って、ギャラも安いから、日本に遊びに行く感じでちょっとやりに行こうやって言ってるんですよ。 そしてそれをライブで録って、それを売ると(笑)。 そういう感じです。 本当にこういうのやりたいんですけど、ただ時間がねえ。 取れるかどうか。 こういう好きなコアなことやり始めると生活成り立たないし。 ここのバランスがちょっとしんどい所。 

PCI: 仕事あるうちに無理してでもやっておこないと、来なくなると仕事全くなくなるという話も聞きます。

ケンジ:そうですよ。 15年前、ジェイがばりばりだった頃のセッションマンなんか今全くダメですね。 ジェイみたいにプロデュースやっててある程度残ったのは別 として。

PCI: ディーンパークスは?

ケンジ:そうディーンパークスだけですよ、何とか残れたのは。 レイなんかにももっと仕事あるといいんですけど。 あんだけリズミカルなギター弾けるなんてレイしか居なかったのに。 ディーンパークスはね、幅が広いじゃないですか。 それでアコギもうまいし、音楽の知識も深いし、彼は「こういうもの」って言えば、ほんとう、その通 りやってくれるんです。 セッションマンとしては最高ですよ。

PCI: またジェイの話に戻りますが、先日彼のうちへお邪魔した時、今後日本のアーティストと一緒にプレイもしたいみたいなこと言ってみえましたが、最近活動に前向きになってみえる様ですね? でも有名な相手じゃないとダメとか言ってみえました。

ケンジ:そうですね。 前はもう全然でしたが、最近仕事に前向きです。 僕はジェイとずっと友達じゃないですか。 こんなことがありました。 俺の親友で角松トシキっていうのがいるんですけど、彼が「ジェイに頼んだんだよ。 高っけえんだよ。 断られちゃったよ。」って言うんですよ。  で、ジェイに俺の友達とプレイしてくれないかって頼んだら。 「Sure! Who is it?」っていうから、「トシキカドマツ」って答えたら、「その名前どこかで聞いたことあるな」だって。 「おめえがNOって言った相手じゃねえか」(大笑) それで一緒にやってくれて、ついでにカラパナでも1曲ソロやってくれたんですよ。 オバタミナコの時もしょっちゅうソロ弾いてくれたし。 

PCI:2月にTUBEていう日本のバンドのベースとギターの人がこちらに遊びに来る予定なんですけど、都合がつけばジェイと一緒に会おうって言ってるんですけど。 角野さん、春畑さんはご存知ですか?

ケンジ:ええ。ジェイグレイドンのツアーの時に2人とも来てくれたんですよ。 前田くんは来なかったですけど。 カラパナの時も来てくれましたよ。

PCI:もしお二人がみえたら、一度ジェイも入れて皆で会いませんか?

ケンジ:全然問題無いですよ。 OKです。 

PCI:角野さんはTUBE以外に自分のバンドも持ってて、ライジングっていうんですが、そっちのバンドでジェイ1曲弾いてくれないかなって言ってたんですよ。 ジェイは有名ミュージシャンとしか演らないって言ってましたが、TUBEならOK だと思うんですけど。

ケンジ:問題無いでしょう。 2月はいると思いますし、カラパナここで演ってるかもしれません。

PCI: じゃまた是非その時お会いさせてください。 今日は本当におもしろい裏話有り難うございました。

ケンジ:まともな話あんまりなくて、裏話ばっかりですよ。(笑) 是非また会いましょう。 今度はゆっくりと家の方へ来てください。


気さくな佐野さんとPCI三浦

2000年12月14日

場所:Shermen Oaks(ロサンゼルス)のケンジさん自宅近くのカフェ、Marmaladeにて

インタビュアー:PCI 堀場/三浦