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チューブアンプについて日米のエキスパートが語る!

Groove Tubes 編 (3/3)

(3)チューブアンプとトランジスタアンプの違いとユーザーへのメッセージ

PCI:フェンダーのカタログによりますと、御社のパワー管は音質を「カラー」で分けています。このカラー分けの根拠は?

Aspen:フェンダーではシンプルにRed, White, Blue と簡略に分けていますが、当社では実際には1から10まで10段階に分けています。Redは8~10でWhiteは4〜7で、Blueが1~3となります。ご存知かもしれませんが、エリック・ジョンソンはもっと小さな差にこだわる人で、4と5の間の4.5が欲しいなどと言われます。(笑) 実際に出てくる音で真空管はマッチングさせていますが、ただマッチングさせるだけでなく、マッチングさせた物をグループ分けして選択できる様にしてはどうかと思いついたのです。最初この10段階のグループ分けをお店に提案したら笑ってバカにされました。でも広告などを打ってミュージシャンの方々にアピールした所、反響が大きくニーズがあることはすぐ分かりました。それで色々な本を出版し、真空管についての情報を広くたくさんの方々に知ってもらう活動を始めました。中でもこの「The Tube Amp Book」は大変好評です。主要アンプメーカーの紹介も載っています。もちろんDr.Z Amp、Rivera Ampも詳しく載っています。それからダンブル・アンプもね。各真空管メーカーの情報、我々のテストデータなどギター用チューブアンプの真実と全てを知りたい方は是非参照下さい。CD-Rも付いていて回路図などの貴重なデータも入っています。

PCI:No. 1~3はEarly Distortion、No. 4 ~ 7と順に遅くなり、No. 8 ~ 10はLate Distortionということですか?

Aspen:その通りです。

PCI:12AX7についても日本では番号によって音質が違うと聞きますがこの根拠は?

Aspen:プリ管は個々がそれぞれ明確な役割を持っています。例えばフェンダーアンプの場合、最初の真空管は1st チャンネルのゲインステージ、2つ目の真空管は2ndチャンネルのゲインステージとなっています。マッチングも必要無く単体での性能が物を言いますが、番号で音質管理選別をしているということはないはずです。

PCI:ではまた別の日本の読者からの質問です。Class Aアンプという言葉がよく話題になりますが、解釈がバラバラで混乱している方が多い様です。あなたにとってClass Aアンプというのはどういう物でしょうか?

Aspen:Class Aアンプはソリッドステートか真空管かに係わらずClass ABに比べて30~40%効率の悪いアンプです。でもそれ故の特徴あるトーンがあります。車のエンジンで言うと2つのピストンがあり、1つが動いている時に1つが休んで交互に動きながら駆動するとします。これがClass A/Bです。Class Aは2つのピストンがいつも動いているか、ピストンが1つだけでいつも動いているという様な物です。Class Aアンプだとコンポーネントは小さくする必要あります。うちのSoul-O-30はClass Aです。Soul-0-50はClass A/Bとなります。Marshall AmpはClass A/Bです。Fender Ampは1954年以降はClass A/BでそれまではClass A でした。VOX AC-30はClass A、ChampもClass Aです。

PCI:Dr.Z AmpやRivera AmpではClass Aに対する解釈がメーカーでもまちまちで、ユーザーに誤解を与えることが多いとのことでした。

Aspen:そうですね。厳密なClass A回路の定義をしてみたところで、アンプを設計する場合は色々な回路を組み合わせていきますのでどこまでをClass Aと呼ぶのかについては議論のあるところですね。

PCI:Rivera AmpやDr.Z Ampの見解ではAC-30はClass Aではないとのことでしたが?

Aspen:それは見解の違いですね。厳密な定義から行くとそうなるのかもしれませんが、ユーザーの目から見た場合、ラフな定義をしてグループ化した方が分かり易いと思います。でもこの様なことを大変気にするというのは日本特有ではないでしょうか?

PCI:そうかもしれません。その他読者からの質問です。大きなアンプ、100Wヘッドが15年ほど前までは主流でした。10年ほど前から30W程度のコンボアンプがポピュラーになり、ここ数年では5Wから10Wのアンプも脚光を浴びています。この流れをどう思われますか?

Aspen:これはオーディエンスの耳が肥えてきた結果当然のトレンドだと思います。25年前、クラブへ行っても音量が大き過ぎて、女性を口説くことも酒のお替りを注文することも大変難しかったですね。(笑) 結果、バンドも儲からず誰も得しませんでした。社会全体が良い音を人間の耳で楽しめる音量で聞くという当たり前の方向へ向かってきたんだと思います。それからPAの性能も格段に良くなりましたから大出力のアンプの必要性も薄れてきました。それと私の様な年になると、大音量ではもう音楽聴くことが不可能なんですよ。(笑)だからこのトレンドは歓迎しています。ただ30W以下となるとドラムと一緒にライブをするのはちょっと無理があるかもしれませんね。30〜50W程度のアンプがライブでは一番使い勝手が良いのではないでしょうか?うちのアンプの品揃いも最近はそこに照準を当てています。

PCI:アンプの話ですが、真空管だけでなく自社製のアンプを製造することになったきっかけは何でしたか?

Aspen:1984年に自社製アンプの製造を始めました。その前にまずSpeaker Emulator を作りました。ヴァン・ヘイレン、スティーヴ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニなどが使ってくれました。アンプとレコーディング・コンソールの間に取り付け、アンプの感じをボリューム上げずに入れるという代物です。その後正式にアンプを作るきっかけですが、ある日本の会社が我々に既存のハイファイアンプの再設計を依頼してきたのです。良い物ができたらそれを彼らが製造して販売するという予定でした。ところが我々の作ったものは気に入って頂けませんでした。我々としては大変良いできと思っていました。その後話し合った結果お蔵入りにするのはもったいないので、自分たちで作って販売しようということになったのです。それが Stereo Switch Power Amp D75 でした。それをきっかけに、何か新しいアイディアが出る度にアンプの品種も増やしてきました。でも今でもメインビジネスはアンプではなく真空管です。

PCI:真空管、トランジスタとアンプの素材は変化してきました。最近ではトランジスタは安いが音が真空管に比べるとよくないというイメージもあります。これについてはどんな見解をお持ちでしょうか? また、ギターアンプ用に今後真空管に取って替る新しい素材はあり得ますでしょうか?

Aspen:チューブアンプとトランジスタアンプの違いには、まず3つの特性のコンビネーションの違いがあります。ディストーションの特性、ゲインの特性、周波数特性。ただこれらは測定可能ですから、現在のトランジスタアンプではこの3つの特性についてはかなりチューブアンプに近い音が作れる様になりましたね。でもチューブアンプにはもう1つの測定不可能な重要な特性があります。ダイナミクス特性です。3次元の立体的特性、サウンドの深さとも言い変えることができます。多くのミュージシャンがチューブアンプは温かい感じがすると言います。この「感じ・FEEL」がダイナミクス特性ですね。

PCI:これは測定不可能でしょうか?

Aspen:色々な方法で測定数値化は将来可能にはなると思います。その結果真空管やトランジスタに替る素材で良いアンプができるかもしれません。ただ現在のところ、特にギターアンプにおいてプレイヤーのタッチの差など微妙なダイナミクス特性をパーフェクトに再現してくれる経済的な素材は真空管しか無いと思います。当分それに替るものが出るのは難しいのではないでしょうか。

PCI:ドクターMusic様からの質問ですが、御社の製品に 「30 Reverb」というアンプがありますが、このアンプの「プリバイアス機能」についてご説明頂けますか?

Aspen:これは全く新しいコンセプトです。伝統的に全てのアンプは設計時に真空管にかかる電圧を決めてしまいます。「プリバイアス機能」ではこれを変化させることができます。例えばフェンダーのシングルコイル・ピックアップからの信号などはこの機能で真空管にかかる電圧を若干上げてやることにより、ニュアンスを変えることができます。レジスターなどを変えるというアンプの改造により、トーンのニュアンスを変えるのではなく、手軽に「プリバイアス機能」でそれができるということです。

PCI:ドクターMusic様からの最後の質問です。日本では一般的な話として、一部の正規輸入元の対応の悪さ、輸入製品のデータやパーツの提供が遅い、修理に出すとしばらく帰ってこない、などとユーザーにとっては辛い状況が続いていますが、これは輸入元というよりもむしろメーカーに対するイメージを悪くしていると思います。末端のユーザーの声をフィードバックする様な努力はされていますでしょうか?

Aspen:うちのホームページを見て頂けるとお分かりになると思いますが、フルタイムのアンプテックがいます。ユーザーの方々からの直接の問い合わせは世界中どこからでも大歓迎で、即対応、回答しております。ディーラーやディストリビューターの皆さんも大切なお客様ですが、ユーザーの方々の支持があって始めて成り立ちます。会社設立以来25年、ユーザーとの直接のコミュニケーションはいつも大切にしてきています。"The Tube Amp Book"という本についても、ディーラーやディストリビューターの方々のために書いたのではなく、ユーザーの皆さんのために書いたつもりです。うちの製品に質問や問題あったら遠慮せずに直ちに techsupport@groovetubes.comへe-mailして下さい。

PCI:そうですか、よく分かりました。本日は有り難うございました!
(2004年6月)
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http://www.groovetubes.com/