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2010年5月 1日

第11回:Red Sparowes/The Fear Is Excruciating, But Therein Lies The Answer

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これを書く気になったはこのバンドを日本でもう少し広まってもらえればと思ったからである。日本ではあまり知られていないが、アメリカ、ヨーロッパでは500人から1000人規模の会場を埋められるほどの人気を保っている。日本盤(Daymare Recordings)のみ前作のEP、Aphorismsのボーナスディスク付き。この2枚とも自分が手がけたと言うのもこれを書くきっかけの一つ。このバンドを簡単に説明しろと言うのなら、歌詞のない、ヘビーな現代版Pink Floydとでも言うべきか???現在のメンバーは Andy Arahood(ギター、ベース、キーボード)、Bryant Clifford Meyer(ギター、キーボード、ベース)、David Clifford(ドラム、パーカッション)、Emma Ruth Rundle(ギター、ボーカル)、Greg Burns(ベース、ペダルスティール) 。バンドの詳しい情報は本作に付いてくる渡辺清之氏によるライナーノートが参考になるだろう。

disc 1
1.Truth Arise
2.In Illusions Of Order
3.A Hail Of Bombs
4.Giving Birth To Imagined Saviors
5.A Swarm
6.In Every Mind
7.A Mutiny
8.As Each End Looms And Subsides

disc 2: Aphorisms
1.We Left The Apes To Rot, But Find The Fang Still Grows Within
2.Error Has Turned Animals Into Men, And To Each The Fold Repeats
3.The Fear Is Excruciating, But Therein Lies The Answer

どの曲にも3つ以上のギターが入っていて、それらは数台のエフェクトペダルを通して演奏、そして録音されているため、Melvinsの時のように一曲一曲の詳しい機材のデータは書く事は難しい。今回はキー・エレメントを書いてみたい。

”A Hail Of Bombs”の2分あたり、"As Each End Looms And Subsides"の6:13等で聴こえてくるヘビーギターは、Bryant Cliffordによる、Electrical GuitarのカスタムギターをRivera Knucklehead Tré headに通しているのがほとんどである。中音域を強くし歪んだギターはAndyのストラトからMarshall JCM800に通しての音である。ストラトのハナをつまんだ様なシングルコイルの音で何となくBryant Cliffordとの違いが分かると思う。シングルコイルと言えば、EmmaのメインのギターはTelecasterである。Emmaはフィードバックの強い、歪んだギターは弾いていない。またAndyとの違いは高音が少し強いのとEmmaはフォークスタイルっぽいアルペジオを使ったフィンガーピッキングが多い。フィンガーピッキングを使う事で高音に多少丸みが出て、キンキンな音にはなっていない。AndyとEmmaはところどころでVox AC30も使っている。本作の解説にも書いてあるような”70年代っぽい音”とはこれらの機材を使用しているからであろう。

他にギターの音の特徴として、全体的に聴いても分かるよう、ディレイやリバーブがギターにかかっている。その上にスタジオのルームマイクを大いに利用して、エフェクトによる宇宙的(空気がないから音は聴こえないのだが、SF映画等のイメージから、言っている事は分かってもらえると思う)空間プラススタジオ的空間が曲の雰囲気をだしていると思う。ギタープレーヤーの一人一人もその空間作りの音を非常に上手く表現している。Memory ManやBossのDDシリーズ、デジタルリバーブがメインでその組み合わせや他のペダルとの融合で曲ごと、パートごとに巧みに操作されている。自分もよくすることだが、バンドからのリクエストもあり、ミックス時に選ぶのではなく、エフェクトを含め録音。ミックスがスムーズに進む。

一曲目の”Truth Arise”の10秒、”Giving Birth To Imagined Saviors”の4:27等で聴こえるタップテンポを使った簡単なディレイもあれば、”Truth Arise”の前奏、”Giving Birth..."4:04等で聴こえるトレモロ奏法で弾きディレイとリバーブを組み合わせ、それを流れるように繰り返しオーケストラのストリングスのような音を出しているパートもある。”A Swarm”の3:20-30あたりのフィードバックの回数を上げて曲を盛り上げたりもしている。また”A Swarm”の0:47から入るスライドギター、”In Every Mind"のイントロのギターで聴こえるのは自分の配置したルームマイクをステレオの左右のバランスを利用して人工的なエフェクトとはまた違った味を出している。実際の部屋の音はエフェクトでは作り難い。またスタジオの広さ、音のはね方がこう言った効果音の色を変えて行く。
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Gregの弾くベースもエフェクトをふんだんに使ってメーロディーを出し、ギターとはまた違う形でその存在をアピールしている。"A Hail Of Bombs"の6秒あたりからと1:40あたりで聴こえるのはベースにオクターブ、ディストーションをかけ、それをボリュームペダルで操作し、ホーンのような感じを作っている。"As Each End Looms And Subsides"のイントロと中間部ではベースを歪ませ、そのフィードバックをトレモロに通し、その速度を変化させ、それがいつのまにかに曲のテンポになると言う上手い使い方をしている。Gregはペダルステールの名手でもある。このアルバムの中にも数回彼のその腕が聴ける。"In Every Mind"の終盤に聴こえるスライドギターは彼のペダルスティールギターによるもの。もともとペダルティールは奇麗な音をアンプから出せるようにデザインされているため、歪ませると音が直ぐに割れてしまう。アンプの調整に時間がかかった事を覚えている。
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個人的に一番気に入っている曲”A Mutiny”の前奏から出てくるのがFender RhodesをLeslie Speakerに通して録音して、右がRhodesのラインアウトからAC30で左がLeslieとミックスを分け、Leslieのトレモロ効果を強調している。写真にもあるが、音を分けるため、Leslieの周りに"小屋"を作ったり、回転数を微妙に調節したり時間をかけこの音が作られた。この音が出来た時のAndyの笑みがいまだに忘れられない。ちなみに前奏から1:06まではドラムはルームマイクのみを使用。ドラムの距離がちょっと離れた所から1:06を過ぎると急に近くに来るよう感じられると思う。

ドラムと言えば、Daveは"In Illusions Of Order"の前奏で面白い事をしている。左手に小さなタンバリンを持ちそれをスネアドラムに当てリズムを刻んでいる。通常、タンバリン、シェイカー等のパーカッション(この曲の4:33あたりが良い例)は基礎録音よろオーバーダブの段階で行われる事が多い。ただ、この場合はバンド全体を動かすリズムでもあり、リハーサルでその叩き方を練習して他のメンバーもそれを聴き慣れていることから、基礎録音でスネアマイクとは別のマイク設置してそれが録音されていた。同じ曲の4:20-33と6:43-7;20のスネアは最近のマーチングバンドで使われるキーの高くスネアのノビが短いマーチングドラムを使い数回重ね取りされている。これもルームマイクを使い多少の距離感を出している。大量が大きいため近距離での録音は難しい。
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その他の楽器では”As Each End Looms And Subsides”の前奏から昼間部にかけてBryant CliffordがNordのシンセサイザーを使ってノイズとアンビエントの効果音を作っていた。またその曲の中間部と後半でEmmaのボーカルが重ね録りされている。

もう一枚のディスクは2年前に録音したEP、”Aphorisms”で、これはCD化されていなかった。新加入のEmmaはこのEPには参加しておらず、この時は彼らの友人でツアーサポートをしていた、ニューヨークのバンド、Made Out of Babiesのギタープレーヤー、Brendan Tobinがギターを彼らと共に弾いていた。本来はBrendanがそのまま加入する予定であったが、ニューヨークに住んでいるため、練習、作曲の共同作業が困難になり、それをあきらめ、Emmaが参加する事となった。

メンバーのどれもがいい腕をしている。決して見せつけるようなテクニックは披露してない。味がありしっかりしたリズムを刻み、その上で変わった音や演奏でとてもいい雰囲気を持ち出している。自分はそれをどうやって引き上げ彼らの表現力を持ち上げるかに集中した。彼らの表現力が伝わってくる素晴らしいアルバムになったと、彼らを尊重するとともに自負している。歌詞が付いていないからジャムバンド的にとらえられがちだが、聴くとメロディーが頭に残り、それに合わせ一緒に歌いたくなると思う。是非お勧めの一枚(実際は2枚)。

投稿者 toshik : 2010年5月 1日 16:07