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2005年10月 5日

第6回:Altamont(アルタモント)" The Monkees' Uncle "

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自分が音楽家になることをあきらめたのが20歳前後でした。 というのも、色々な音楽が好きなためバンドなどを作ってしまったときには部類に分けられ、決められた曲を毎晩のごとくリハーサルスタジオそしてコンサート会場で弾かなくてはならない事が頭によっぎたからです。 まぁ、それは屁理屈で実際はいくら練習してもうまくならなかったのが本当の理由なんですけど。 10代の頃からプロデューサーまたは作曲家になれればとも思っていて、エンジニアからその道を開いた人間もいると考えていくようになりました。 ちょうどそんなことを考えていた時期に友人がエンジニアの学校を勧めてくれて、そこへ行くことを決意したのです。 その学校を卒業して数年たち、スタジオで色々な人々と働いてきました。 自分の人生を大きく変えるバンドにも出会いました。 Toolとの出会い... そのギタープレーヤーのAdam Jones(アダム・ジョンーズ)が紹介してくれたのが "God Father of Grunge"とか”アンダーグラウンドロックの帝王”と呼ばれているバンド、the Melvins(メルヴィンズ)です。 彼らとの出会いはまさに自分の人生、音楽観を大きく変えることとなりました。 そしてそのバンドのドラマー、Dale Crover(デール・クロヴァー)が彼のサイドプロジェクトの録音、プロデュースをやって欲しいと自分に頼んできたのです。 そしてそのCD、"The Monkees' Uncle(モンキーズ・アンクル)"が完成しました。 完成してそのプロモーションとしての記事が彼らのレーベル、AntAcidAudioに記載されていました。 その記事をよーく見てみると自分の名前がオルガン奏者として載っているのです。 いつの間にかバンドに参加することになっていたのです。 ダチョウ倶楽部の名文句が頭に響きました。 本当に知らなかったのです。 今回と次回かその次かに分けた2回は”聴いてくれ、この1枚!”ではなく、”買ってくれ、聴きこんでくれ、この1枚!”として、そのバンド、Altamont(アルタモント)の "The Monkees' Uncle" を紹介させてもらいます。

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まずはメンバーを紹介させてもらいます。 まず始めは、このコラムの読者の皆さんはもう読み飽きた名前でしょうが、Dale Crover がギター、ヴォーカル、1曲だけベース、そして数曲でのドラムを担当しています。 サンフランシスコ在住のイケメン(死語なのでしょうか?)、Dan Southwick(ダン・サウスウィック)が一曲を除いてすべての曲のベース、ドラムとギターを1曲づつ弾いています。 同じくサンフランシスコ在住で元Acid King(アシッド・キング)のJoey Osbourne(ジョーイ・オズボーン)が4曲ドラムを弾いています。 オーストラリア出身の大男Sasha Popovich(サーシャ・ポポヴィック)が4曲でドラム、そして1曲でメタルタンバリンを弾いています。 そしてもう一人のイケメン、Toshi Kasai(トシ・カサイ)がB3オルガン、フェンダー・ローズ、シンセサイザー等のキーボード楽器で数曲、パーカッションを1曲弾いています。 

Melvins とは別にもっとベーシックなロックバンドをやりたかったDale は1994年にその当時サンフランシスコに住んでいてルームメイトであった Dan を呼びかけ、Dan の友人で、当時の Acid King のドラマーの Joey の3人で Altamont を結成しました。  Altamont とはサンフランシスコ郊外の土地名で、1969年に The Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)がコンサートを行い、彼らが雇ったボディーガードが観客の一人を殺すと言ったロック史で最もおぞましい事件のひとつが起こった場所なのです。 その時のコンサートの模様は”Gimme Shelter”と言う映画にも収録されています。 「その事件が60年代のロック史の幕を閉じた出来事」と語り継がれています。 その地名をバンド名に選んだこのバンドは60年代、70年代の音楽を意識したヘビーロックナンバーを引き下げ、1枚のEPと2枚の LP をサンフランシスコのMan's Ruin Recordsというレーベルから発売されていましたhttp://www.melvins.com/altamont/#。 残念ながらその会社が倒産してしまい、Daleは新しいレーベルを数年探していました。 そんな時に Melvins の所属するレーベル、Ipecac が姉妹会社、AntAcidAudio を設立。 そこに話を持っていくと興味を示し、その勢いでアルバム製作に移って行ったのです。 

"The Monkees' Uncle" は以前の Altamont のアルバムに比べパンク色が強く、Melvins のように重いギターが”売り物”でもありません。 ヘビーな音楽が耐えられない人たちも楽しめるアルバムだと思っています。 ギターに関しては数種類を使い分け、アンプやエフェクターも多種多様、実験的な音も多く使われていますのでギター好き、音キチ(”キチ”は使って良い言葉でしょうか?)の方にも聴いてもらいたいです。 ただ単にアルバムの解説をしても面白みがないので、ここではそのアルバム製作の裏話というかネタ明かしをしたいと思います。 それも興味のない人には面白くはないとは思いますが、せっかくですので...

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1). FRANK BANK
2). BATHROOM CREEP
3). DUM DUM FEVER
4). EL STUPIDO
5). LAUGHING BOY
6). PEDIGREE
7). MONKEES UNCLE
8). THE BLOODENING
9). BULL RAMUS
10). EASTER SUNDAY
11). IN A BETTER WORLD

まず奇妙なパルス音で始まり痛快なロックナンバーに移り変わる1曲目が”Frank Bank”です。 そのパルス音はマイクを小さいマーシャルアンプにつなげ、そのマイクをスピーカーに近づけた時に起こるフィードバックを録音したものです。 ミックス(ダウン)の時にはオートメーション(ミキサーの自動操作)を利用してそのパルス音が右と左に行ったり来たりしています。 ヘッドフォンで聴いていただくと分かると思います。 ギターはギブソンのLPやファイヤーバードを使っています。11秒、35秒、3分02秒で聴こえる高音はGibson(ギブソン)ファイヤーバードをギターキャビネットに近づけ、フィードバックを起こしながら演奏しています。 1分22秒のファズギターは自分の手作りエフェクター”T-Fuzz”(写真右下)を利用しています。 

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2曲目の”Bath Room Creep”も是非ヘッドフォンで聴いていただきたいです。 これもまたオートメーションをフル活用して楽器とヴォーカルの位置が変わって行きます。 まずはすべての楽器がモノラル、つまりは真中から聞こえてきて、ボーカルが右の方から聞こえてくると思います。 一番の終わった43秒あたりでギターとドラムがステレオ、つまりは右と左の両方から聴こえてくるようになり、ボーカルが真中に来ます。 音の広がりを感じることでしょう。 3番に入った1分50秒あたりでドラムの右と左が入れ替わります。 右にあったハイハットが左に移ります。 よく聴いていただかないと分からないかもしれません。

かなりMelvinsの臭いがする3曲目が”Dum Dum Fever”です。 45秒、3分03秒で聴こえて来るタンバリンみたいな音はMetal CrasherとかRibbon Crasherと言われるドラムセットに付ける楽器をSashaがタンバリンのように手にもって弾いています。 それに右と左に別々の時間のディレイをかけているためぐるぐる回っているように聴こえます。1回目と2回目のディレイの時間を変えているためパターンが違うことに気づくと思います。 1分20秒あたりから、時々歌詞の合間にあるギターリフと2回目のギターソロで聴こえるファズギターは”T-Fuzz”を利用しています。 2分41秒、4分39秒、と5分00秒に聴こえてくるベルのような音は蚤の市で買ったおもちゃのピアノ(写真中央)を使っています。 おもちゃのピアノやキーボードの載っている写真は実際にこのアルバムで使われたものです。 

4曲目のノリの良いナンバーは”El Stupido”と言って、このアルバムの代表曲です。 これは1番から2番の歌のところはごく一般的な録音方法のみで行われていますが、2分46秒から色々な楽器、エフェクトを取り入れています。 そこの部分からEbowを使ったとギターに、自分の弾いたシンセサイザーがメロディーを弾き、ドラムのフィルにファイザーがかかっています。 3分15秒から遠くのほうに聴こえる声はDaleが分けの分からない事を叫び、それをとある機材(ひ・み・つ)を使ってラジカセのラジオに送り、ラジカセの出力を使って録音しています。 耳のいい人はラジオの周波数(推定12-15kHzあたり)が聴こえてくる(3分48秒あたりがピーク)と思います。

5曲目はスタジオではなく、家の部屋で録音されたものです。 Brain Eno(ブライアン・イーノ)をかなり意識して作られた”Loughing Boy”はこのアルバムで最も実験的な曲です。 Danの弾くリングモジュレーターに通したベースを基盤に色々な楽器や音が使われています。 Circuit Bending(サーキット・ベンディング)と呼ばれている、おもちゃのキーボードに改造が行われたものを2台使ったり、お湯が沸くと「ピー」となるヤカン(写真右中段)に水を入れたまま叩いたりしています。 始まってすぐに左側から聞こえてくるのが自分の改造したおもちゃのキーボート(写真左下と左中段)の音で、右から聞こえてくる「ポワーン」と鳴っているのがヤカンです。Daleのボーカルは何度か重ね取り(オーバーダビング)しているのですが、いくつかはコーラスを通して録音していて、1つはトランシーバーを使って録音しています。 所々で、特に3分超えたあたりの「はーあはー」と繰り返されているところの合間に聞こえる「ガッ!」と言う音は、トランシーバーの受信ボタンを切ったときになっている音です。 タクシーの無線で聴こえ音とほぼ同じです。  

とまぁ、「何を言ってか全然分かんねーよ!」と思う人が多いかもしれませんが、こんな風にアルバムが「どういう感じで、どういった機材により作られているのか」とか考えながら聴くのも面白いのではないでしょうか。 何度も聴いたことのある曲でもスピーカーやヘッドフォンを変えた途端、違って聴こえることや今まで気付かなかった音などが聴こえたと言った経験を持っている方も多いと思います。 ボーカルや楽器を弾く方は弾く楽器に耳が捕らわれ勝ちですが、そう言ったミュージシャンやプロデューサーが長い時間をかけて作った、”小細工”を注意して聴くのも面白いのではないでしょうか。 ちなみにこのアルバムはDaleと自分とのプロダクション・ユニット、Deaf Nephews(デフ・ネフューズ)のプロデュースによるものです。 Deaf NephewsはJello Biafra with the Melvins の2枚目のアルバム、"Sieg Howdy!" http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000AC7P2Oの最後に収録されている曲、"Caped Crusader (Subway Gas / Hello Kitty mix)"も手がけています。 こちらは9月27日発売です。 買って下さい!
 
このバンド、Altamont は10月の終わりから11月の中ごろにかけアメリカ西海岸に沿った小さなツアーを行う予定です。 Jello Biafra with the Melvins の前座としていくつかの町を回る予定です。 詳しい日にちが決まり次第記載させていただきます。 この続き6曲目から最後の11曲目についてはツアーでの出来事などを交えて書きたいと思っています。 お時間、お金に余裕のある方は是非ライブに足を運んでください。 自分はおお暴れしたいと思っています。

http://toshimanaki.blogspot.com 自分のブログです。
http://www.antacidaudio.com/altamont_bio.html Altamontの公式サイトのバイオグラフィーです。
http://www.alternativetentacles.com/product.php?product=1164&sd=Qik5vmTFImUYsI4K25V Jello Biafra with the Melvins の2作目 "Sieg Howdy!"の公式サイトによるレヴューです。

トシ・カサイさんのプロフィールはこちら

トシ・カサイさんのJINAでのインタビューはこちら

トシ・カサイさんは下記↓のミュージシャン達と仕事をしてきました。

Toshi Kasai: Audio Engineer / Producer / Song Writer
Worked with or Credit on Albums of:

Altamont, Eddie Ashwroth, Jello Biafra, The Black Watch, Bloodhound Gang, The Boneshakers, Capitol Eye, Crush Radio, Danzig, Gavin DeGraw, Phill Driscoll, Eastern Youth, Mark Endert, The Exies, Robben Ford, Foo Fighters, Robert Fripp, Hangface, Dan Hicks & His Hot Licks, Adam Jones, Rickie Lee Jones, Kool Kieth, Eddie Kramer, John Kurzweg, Randy Jacobs, Less Than Jake, Lustmord, Dave Matthews Band, Maroon 5, Melvins, Bette Middler, Nehemiah, Willie Nelson, Ours, Mike Patton, Pimpinela, Puddle of Mudd, Willian Reid, The Road Kings, Sepultura, Matt Serletic, Son Y Clave, Splender, Sprung Monkey, Sugar Bomb, T-Square, Taxiride, That's What You Get, Tool, VAST, The Ventures, Mike Ward, Sound Tracks: Dude, Where is My Car?, Gran Turismo 2, Polar Express.


 

投稿者 admin : 05:22