« 2005年1月 | メイン | 2005年8月 »

2005年4月 3日

第4回:Electric Light Orcestra (ELO/エレクトリック・ライト・オーケストラ)の Out of the Blue/アウト・オブ・ザ・ブルー

先日、ケーブルテレビで「コンサート・フォー・ジョージ」をやっていました。 エリック・クラプトンが中心となり、ビートルズ、ジョージ・ハリソンとレコーディングをともにしたミュージシャン、ジョージの友人達がジョージの1周忌に集まってロンドンで行われたコンサートなのです。 ポール・マッカートニーが「サムシング」を...ポールが弾くジョージの曲と言うだけで感動したのですが、それに加えてそれをポールのウクレレによるソロで始まり、後半にバンドが加わると言った素晴らしい演出が盛り上げていました。 ビートルズファンに限らず色々な音楽好きの人に観てもらいたいです。 今回はそのコンサートに出演し, そのコンサートのCDとDVDの音楽プロデュースを担当したJeff Lynne(ジェフ・リン)のバンド、Electric Light Orchestra (ELO/エレクトリック・ライト・オーケストラ)のアルバム、"Out of the Blue/アウト・オブ・ザ・ブルー"を紹介したいと思います。

唐突ながら、単なる自慢話を書かせてもらいます。 4年ほど前のある日、知り合いのギターテクから電話をもらいました。彼がその時働いていたバンドのべーシストが日本でしか売っていないベースを何とかして手に入れたいので、日本人である自分に何とか手だてを考えて手に入れて欲しいと頼んできたのです。彼が言うにはその時リハーサルの最中なので、リハーサルスタジオに来てそのべーシストと話して欲しいと言われ即座にスタジオに向かいました。行ってみると、そのベーシストはLAの売れっ子スタジオミュージシャンのMatt Bissonet(マット・ビソネット)で、兄のGregg(グレッグ)もいました。彼らはELOの"Zoom"(CD/DVDが出ています)ツアーに参加するため練習していたのです。そうです、そのリハーサルはELOのものだったのです。彼らの休憩時間にマットとそのべースの話をしているとグレッグがやってきて、ギターテクの友人と4人でちょっとした話でもりあがっていました。その時、奥から向かってくる人に気付きました。ジェフ・リンです。当時(今もですが)イギリス英語に慣れていなかった(アメリカ英語も慣れていませんけど...)自分はジェフと話を理解出来るか、と緊張して彼が来るのを待っていました。 「近づいてくる、何を話そう」と頭の中では色々なことが過ぎり、マットとグレッグの話をほとんど聞いていませんでした。5メートル、4メートルとジェフが近づいて来ます。あと2メートルといったその時、急に方向転換、ものの見事に無視され泣きそうになった事を覚えています。自慢出来る事はそのリハーサルスタジオで彼らの演奏を間近に聴けた事です。

そんな事はともかく、ELOは'69年にもとThe Move(ムーヴ)のRoy Wood(ロイ・ウッド)とジェフが中心となり、Rick Price(リック・プライス)、Bev Bevan(べヴ・ビーヴァン)の4人でイギリスで結成され、'71年にヴァイオリン奏者のSteve Woolamを加え、ビートルズにクラシカル音楽のアレンジを加えたような曲を作りレコードデビューを果たしました。 ロイはその1枚を後にバンドを去り、ジェフがそれを引き継ぐ事になったのです。その後、ジェフが繰り出すポップセンスは"Evil Woman/イヴィル・ウーマン"、"Strange Magic/不思議な魔術"、"Telephone/テレフォン・ライン"等の多くのヒット曲を生み出しました。

この"アウト・オブ・ブルー"は'77年発売され、ベスト盤の"Ole'ELO"を含めて8枚目にあたります(英国では"The Night the Light Went On/ELOライブ"を含め9枚目です)。 初期のELOはもろにビートルズの影響を隠せず、酷い評論もあったそうです。 ですがアルバムを重ねるごとにシンセサイザー等の近代技術の導入でビートルズとの違いを見せた事やジェフの独自の作曲センスが芽生え、4作目の"El Dorado/エルドラド"から着実にファンを増やしていきました。 その"エルドラド"、その次のアルバム"Face the Music/フェイス・ザ・ミュージック"、"A New World Record/オーロラの救世主"等の発売でシングル、アルバムともにアメリカ、イギリスで売れ始め着実にロックスターとしての地位を築いて行ったのです。 その集大成とも言うべくアルバムがこの"アウト・オブ・ザ・ブルー"です。

Out-of-the-Blue.jpg


このアルバムがELOを世界ツアーを行える規模にした事も事実で、その当時の日本公演で武道館を満員にもしたくらい日本でも彼らの知名度をあげたアルバムでもあります。 全17曲とお特で、当時はレコードで2枚組みでした。 ただ単に商業的なヒット曲をねらっているだけではなく、所々に効果音、シンセサイザーやボーコーダーを導入したりと実験的なアプローチも見え隠れします。 それにストリングスを加えてクラシカル音楽の影響を見せるといった、昔からあるものと新しいテクノロジーの融合はデビュー以来のELOの"色"を出す事も忘れていず、聞き手を楽しませます。

音の面でELOを聴いていて関心させられる事はストリングスや多くのコーラスを使っていながらサウンドトラックやクラシカルミュージックのように大袈裟になっていない所です。 ジェフのプロデュースはそう言った所で発揮されていると思います。 もう一つの特徴がドラムの音です。 これは専門的な事になるのですが、知人に聞いたのですが彼は現在もドラムの録音ではルームマイクしか使わないらしいのです。 ルームマイクとはドラムを録音する際、そのスタジオの部屋の反響を強調するために使うマイクの事、またその置き方、また録音の仕方を言います。 近代の録音方法ではルームマイクに加えクロースマイク、またはスネアマイクやトムマイクと言った各ドラムに近づけてマイクを置きそれぞれのドラムを別々のトラック(http://www.jinaonline.org/topics/105/index.php?city=LAの7つ目の質問に対する返答を参照)に分けて録音します。 60年代後半までルームマイクだけの録音が頻繁に行われていました。それは録音出来るトラックの数が限られていた為に行っていただけで、その当時に比べてテクノロジーがかなり発達した今、その昔ながらの技術だけで録音する人はあまりいません。ビートルズを始めとした50年代、60年代のバンドに敬意を評しての事か、いまだにジェフはそのやり方にこだわっているようです。このアルバムに限らず、ELOの曲を聴いてドラムがちょっと遠くから聞こえてくるように思った人も多いと思います。他のバンドのドラムの音、特に一連の70、80年代ファンクバンドや"Highway to Hell/地獄のハイウェイ"以降のAC/DC、"The Long Run/ロング・ラン"あたりのEagles(イーグルス)等のドラムの音と比べてみると明らかになると思います。勿論、最近のドラムの音ともおお違いです。


(1) Turn to Stone
(2) It's Over
(3) Sweet Talkin' Woman
(4) Across the Border
(5) Night in the City
(6) Starlight
(7) Jungle
(8) Believe Me Now
(9) Steppin' Out
(10) Standin' in the Rain
(11) Big Wheels
(12) Summer and Lightning
(13) Mr. Blue Sky
(14) Sweet Is the Night
(15) The Whale
(16) Birmingham Blues
(17) Wild West Hero


痛快なロックナンバーの(1)で始まり、感傷的になってしまう(2)、(9)と(17)。 聞き手を和やかにしてくれそうな(3)と(14)。ストリングスとボーコーダーの融合で実験的であり、(9)の前奏曲とも言うべく(8)。そしてシンセサイザーを多用したインストナンバーの(15)と、色々な感じの曲による構成で一時間以上の長さを感じさせません。そして(13)はこのアルバムの代表曲、もしくはELOの代表曲と言っても過言ではないと思います。ここ数年、多くのサウンドトラック、車を始めとするコマーシャル等でこの(13)は利用されています。アレンジの面でも少ない楽器の数で始まり、後半はストリングスとコーラスがだんだんと入ってきて盛り上がりを作っています。歌詞もさわやかで落ち込んでいる時に聴くと元気になるのではないでしょうか。 正直な所、この(13)を聴く為に買っても損はないのでは... 自分はその(13)目当てでこのCDを買いました。

80年代半ばからジェフはプロデュース活動を中心に大忙しとなります。1988年にジョージのレコードに曲を録音する為に集まったBob Dylan(ボブ・ディラン), Tom Petty( トム・ぺティー)、 Roy Orbison(ロイ・オービンソン)、そしてジョージとともにTraveling Wilburys(トラベリング・ウィルベリーズ)を結成し、彼らは2枚のアルバムを残しました。その成功で勢いづきトムそしてロイのアルバムも手がけ、プロデューサーとして商業的にも成功を収めジェフの名をあげていきました。 '90年に初のソロ"Armchair Theatre/アームチェア・シアター"も発売しました。 そしてビートルズの未発表曲"Free As Bird/フリー・アズ・バード"のプロデューサーに抜擢され、その後リンゴとポールのアルバムも手がける事になります。初期の頃、ビートルズの真似バンドとたたかれていたELOの中心人物であったジェフが最も尊敬していたバンド、ビートルズを手がける、と言った事はプロデューサー冥利に尽きるし、プロデューサーになりたいと思う人には誰もが夢見る事ではないでしょうか。 しかもビートルズ...

2年くらい前にアメリカのとある歌手と仕事をしていました。 その休憩時間にテレビを見ているとジェフとトム・ぺティーがMTV系列の番組に出ていました。 それを観ていた20代前半のその歌手は「トム・ぺティーの横にいる髭の人誰?」と言い、自分がジェフ・リンの事を説明しても理解してもらえなかった事を覚えています。 後期のビートルズが好きな若い人には聴いていただきたいです。

トシ・カサイさんのプロフィールはこちら

トシ・カサイさんのJINAでのインタビューはこちら

トシ・カサイさんは下記↓のミュージシャン達と仕事をしてきました。

Toshi Kasai: Audio Engineer / Producer / Song Writer
Worked with or Credit on Albums of:

Altamont, Eddie Ashwroth, Jello Biafra, The Black Watch, Bloodhound Gang, The Boneshakers, Capitol Eye, Crush Radio, Danzig, Gavin DeGraw, Phill Driscoll, Eastern Youth, Mark Endert, The Exies, Robben Ford, Foo Fighters, Robert Fripp, Hangface, Dan Hicks & His Hot Licks, Adam Jones, Rickie Lee Jones, Kool Kieth, Eddie Kramer, John Kurzweg, Randy Jacobs, Less Than Jake, Lustmord, Dave Matthews Band, Maroon 5, Melvins, Bette Middler, Nehemiah, Willie Nelson, Ours, Mike Patton, Pimpinela, Puddle of Mudd, Willian Reid, The Road Kings, Sepultura, Matt Serletic, Son Y Clave, Splender, Sprung Monkey, Sugar Bomb, T-Square, Taxiride, That's What You Get, Tool, VAST, The Ventures, Mike Ward, Sound Tracks: Dude, Where is My Car?, Gran Turismo 2, Polar Express.

投稿者 admin : 16:49