« 第2回:"It Happened One Bite" by Dan Hicks | メイン | 第4回:Electric Light Orcestra (ELO/エレクトリック・ライト・オーケストラ)の Out of the Blue/アウト・オブ・ザ・ブルー »

2005年1月 7日

第3回:Jello Biafra(ジェロ-ビアフラ)が選んだ一枚 "Funhouse" by the Stooges(ストゥ-ジス)

70年代半ば、ディスコ音楽が主流であった世の中に若者たちは音楽に激しさを求め、それと同時に社会に対する不満をぶつけるべくしてパンクムーブメントがジワジワと起こっていたのです。 その代表格がイギリスのthe Sex Pistols(セックスピストルズ)、the Clash(クラッシュ)。そしてアメリカではthe Ramones(ラモーンズ) の人気が凄まじかったのです。 アメリカではニューヨーク出身のthe Ramonesに負けじと西海岸でもパンクバンドの勢いが出てきて、その中の一つにDead Kennedys(デッドケネディーズ)がありました。 そのバンドのボーカルがJello Biafra(ジェロービアフラ)です。 今回はそのJelloの選ぶアルバムを紹介したいと思います。

Jello BiafraはEric Boucherと言う本名でコロラド州に生まれ、サンフランシスコに移りDead Kennedysを結成しました。 バンドの名前からも分かるとおり歌詞の内容は政治的なものばかりです。 多くの他のパンクバンドも政治的な事を歌ったものがありましたが、 Dead Kennedysほど政治に執着したバンドはなかったのではないでしょうか。 彼の"反政府"と言うより"世直し精神"はバンド活動だけにとどまらず、 アメリカの大学を中心に演説をしてまわったり、さらにはサンフランシスコの市長の選挙にも出馬したほどです。

自分がJelloに出会ったのは数年前のある友人のコンサートの会場でした。 その時すでに知り合いだったthe Melvins(メルビンズ。シアトル郊外出身のロックバンド。 Nirvana(ニルバーナ)のKurt Cobainがもっとも影響させれたバンドの一つ。 詳しくはインタビューが載っています)のメンバー達にJelloを紹介してもらいました。 Jelloに会う数ヶ月前にthe Melvinsの面々から「Jello Biafraとアルバムを作ろうと思っている。 トシに手伝ってもらいたい」と聞かされていました。 そしてJelloに自己紹介をしていた時そのアルバム制作の話をすると、「シーッ。 デカイ声で言わないでくれ! 極秘のプロジェクトなんだからな。 誰にも言わないでくれよ!」と言われました。 そのJelloに会うまでの数ヶ月、 自分は色々な人にそのプロジェクトの話をしてしまっていたので、その時Jelloに返す言葉がありませんでした。 その直後、気まずくなったので、誰かに呼ばれたフリをして逃げるようにJelloから立ち去った事を覚えています。その後すぐにthe Melvinsのメンバーにそのことを話すと、こめかみの周りで人差し指を回して、「Jelloは頭がおかしい」と言うような合図を取っていました。 つまりはJelloだけが極秘のプロジェクトだと思い込んでいたのです。 その時の自分がJelloに対しての印象は"難しそうな人"だと思いました。

それから1年半くらいたってやっとそのプロジェクトが実現したのです。 プロジェクトを通じてJelloの事をもっと知って気づいたのですが、 別に"難しい人"ではなかったのです。 ただ人見知りをするみたいで初めて会った人にはそっけなく話す様です。 でも一遍知り合いになると話が長いのです。 何度か仕事が終わった後のスタジオで1時間から2時間話をして、なかなか帰れなかった事もありました。 でも演説をして廻っているだけあって、話の内容は濃く聞いている人を引き付ける物があります。 その演説も長いらしいです。 4時間はかるく超えるそうです。 政治の話はもちろん、物凄い量のロックバンドの事を知っています。 自分も幾つか聴く様にと薦められました。ちなみにそのプロジェクトのCD(レコードも)、Jello Biafra with the Melvins/Never Breathe What You Can't SeeがJelloの会社Alternative Tentacles Recordsから出ています(www.alternativetentacles.comもしくはhttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0002VES3M/qid=1105987500)。 是非チェックしてみてください。

Jello-Melvins-NBWYCS.jpg

そんなJelloが選んだアルバムは2枚ありました。 一つはthe Stooges(ストゥ-ジス)のFun House。 もう一つはHawkwind(ホークウィンド)のSpace Ritualでした。 Hawkwindの方は又の機会にしておいて、今回はthe StoogesのFun Houseについて書きたいと思います。

The StoogesはRon Asheton、Scott Asheton、Dave Alexander、それと後にソロで活躍するIggy Popの4人で'67年にデトロイトで結成されました。 このFun Houseは彼らの2作目のアルバムです。 後にバンド名がIggy and the Stoogesと改名したり、Iggyのソロでの活躍等の為、 Iggyのワンマンバンド的イメージがありますが、このアルバムの全曲が4人による共同作品です。 Jelloがこのアルバムの好きな理由の一つがアルバム全体の"荒々しさ"なのだそうです。 パンクロックと言う言葉が使われるようになったのはthe Ramonesやthe Sex Pistols、 the Clashが出てきた'76年あたりからです。それまで60年後半からステージをところせましとおお暴れしていたバンド、MC5やthe Who(フー)などはただ"激しいロックバンド"(the Whoは"モッズ"とも呼ばれていました)と言われただけで、後にパンクロックの起源と言われる様になったのです。 The Stoogesもその中の"起源"の一つで、今で言えばまさにパンクバンドなのでしょう。かと言って決してパンクのイメージであるテンポが早いだけと言う訳ではなく、演奏や歌い方がざつ(と言ったら不平がありますけど)と言うか生々しく、偽りがないといった所がパンクだったのでしょう。そういった"荒々しさ"が多くの若者そして'70年代後半に出てくるパンクバンドの開拓者と言われたバンドに影響を与えたのではないでしょうか。その証拠にthe Sex Pistolsは幾つかのthe Stoogesの曲を演奏していたし、 もう一つの'77年にデビューしたパンクバンド、the Damned(ダムド)はこのアルバムの (5) を取り上げています。 Jelloに聞くと、「このアルバムが出て2年くらいして一気にthe Stoogesに似たバンドが増えたよ。 自分のまわりにも沢山いた。 自分も結局その中の一人だったんじゃないかな。だけど自分の場合は4,5年経ってからだったから、結構遅かった方だよ」と言っていました。 Dead Kennedysを結成するきっかけに大きく影響したのがこのアルバムだったのです。

Funhouse.jpg


(1) Down on the Street
(2) Loose
(3) T.V. Eye
(4) Dirt
(5) 1970
(6) Fun House
(7) L.A. Blues


パンクバンドに欠かせないのがライブです。 このアルバムからはスタジオ録音でありながらそのライブ感が伝わってきます。 Iggyのライブパフォーマンスは凄まじいです。 とあるインタビューで知ったのですが、Iggyがステージで暴れまくるのは客が求めるから始めたそうです。 Iggy自身はバンドを始める前、the Beatles(ビートルズ)のような優等生的パフォーマンスをステージで行いたかったらしいのです。 Iggyのステージパフォーマンスはどことなくthe Doors(ドアーズ)のJim Morrisonとかぶさる所があるようにも思えます。このアルバムの中の数曲も、何処となくthe Doorsを思い出させます。 (4), (5) あたりはthe Doorsのにおいがプンプンします。 The MelvinsのドラマーDale Croverもこのアルバムを彼自身のトップ3に入ると言っていました。 そのDaleが言うにはthe Doorsの勢いがあったその当時、彼らの所属していたレコード会社エレクトラは第二のthe Doorsを探していたのです。 そこでエレクトラが見つけたバンドthe Stoogesをthe Doorsに似せようとしたのです。 Iggyがかなりthe Doorsに入れ込んでいた事も事実で、1971年にJim Morrisonが亡くなった時、IggyがJimの後釜としてthe Doorsに加入すると噂が流れたほどです。

最後の(7) を除いてアルバム全体シンプルに作られています。 (1) や(2)は 、かなりシンプルな曲ですし、歌詞もシンプルです。 短い詩を繰り返し読んでいるみたいです。全体的に楽器の数が最近の音楽に比べて少ない事も明らかです。そうする事によって一つ一つの楽器に重要な役割が出てくるのとともに、演奏者の方はゴマカシが効かなくなります。そのあたりのライブ感をプロデューサーで元the Kingsmen(キングスメン)のDon Gallucciは出そうとしていたのだと思います。 The Kingsmenのヒット曲"Louie Louie"もライブ感覚があり、その曲を聴くと分かりますが、Iggyの歌い方、演奏の仕方の面でこのアルバムとかなり近いものがあります。正直なところ、商業的に考えると一般には受け入れられにくかったようです。と言うのも他にこのようなバンドが少なかったからでしょう。Jelloが言うにはこのアルバムが出された当時1100枚しか売れなかったそうです。それでもそのシンプルでストレート、そしてそのライブ感等が若者の心をジワジワとつかんで行って、このアルバムが伝説的になったのではないでしょうか。

最近のバンドのコンサートに行ってCDの演奏よりひどくガッカリした経験を持っている人は多いのではないでしょうか。すべてがそうと言う訳ではありませんが、最近の音楽はライブでは再現が不可能なくらいの数の音(楽器)を重ねて録音している事や、コンピューターによる修正の為、演奏者、歌手の実力以上のパフォーマンスが収録されている事、そしてデジタル器材による自動演奏による人間味の欠乏等が当たり前のようになっています。 そんな中、このようなアルバムはかえって新鮮に聞こえるのではないでしょうか。このようなCDを聴いてコンサートに行けばアルバムにかなり近いかそれ以上の物が観れるはずですよね。完璧な演奏を求めるだけが音楽の神髄ではありません。 コンピューター、デジタル器材による打ち込み音楽に飽きた方には良い刺激になると思います。

トシ・カサイさんのプロフィールはこちら

トシ・カサイさんのJINAでのインタビューはこちら

トシ・カサイさんは下記↓のミュージシャン達と仕事をしてきました。

Toshi Kasai: Audio Engineer / Producer / Song Writer
Worked with or Credit on Albums of:

Altamont, Eddie Ashwroth, Jello Biafra, The Black Watch, Bloodhound Gang, The Boneshakers, Capitol Eye, Crush Radio, Danzig, Gavin DeGraw, Phill Driscoll, Eastern Youth, Mark Endert, The Exies, Robben Ford, Foo Fighters, Robert Fripp, Hangface, Dan Hicks & His Hot Licks, Adam Jones, Rickie Lee Jones, Kool Kieth, Eddie Kramer, John Kurzweg, Randy Jacobs, Less Than Jake, Lustmord, Dave Matthews Band, Maroon 5, Melvins, Bette Middler, Nehemiah, Willie Nelson, Ours, Mike Patton, Pimpinela, Puddle of Mudd, Willian Reid, The Road Kings, Sepultura, Matt Serletic, Son Y Clave, Splender, Sprung Monkey, Sugar Bomb, T-Square, Taxiride, That's What You Get, Tool, VAST, The Ventures, Mike Ward, Sound Tracks: Dude, Where is My Car?, Gran Turismo 2, Polar Express.

投稿者 admin : 2005年1月 7日 16:36