Historique Guitars 今井康雅氏インタビュー

 

「ヒストリークギター」と言えば、独自の視点で良いヴィンテージ楽器を集められ、リペアにも定評がある信頼できるお店です。オーナーの今井さんにアメリカでお会いした際、インタビューさせて頂きました。ヴィンテージギターに興味ある方には見逃せない内容です! (2003年6月)
Hitorique Guitarsのサイトはこちら↓です。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~guitar/index.htm

PCI:まずは、なぜヴィンテージギターの店を持つことになったのか、そのいきさつからお話し頂けますか? 

今井:中学生の時に初めてエレキギターに触れ、高校でも弾いていました。 多くの人はプロギタリストに憧れたりするんでしょうけど、私の場合は高校2−3年の時点で将来は自分の楽器屋を持ちたいっていう、まあ漠然とした夢だけど持っていたんです。高校が進学校だったんで勉強から逃げたのかもしれないんですけど。(笑) いち早くその自分の夢に向かって行くためには、高校を卒業したらすぐに就職した方がいいだろうと、楽器業界にね、そう思ったんです。そうしたら、たまたま山野楽器さんの新卒者求人案内を見たんです。あぁ、これはフェンダーで有名な山野楽器だ! ここへ行きたいと思ったんです。甘かったんですけどね。山野楽器さんにはレコード部門もあれば、ピアノのセールス、総務部、もちろん経理もある。でもとにかくフェンダーの山野楽器へ就職しようと思ったんです。

PCI:楽器部門、それもギター関係の職場に行けるとは限りませんよね。

今井:そう、そしたらよっぽど運がいいんですかね。海外事業部っていうフェンダーの輸入元に配属されたんです。 

PCI:最初からいきなりですか?

今井:そうなんです。あ、ここでどうして楽器業界に行きたいと思うようになったかという話に戻りますね。中学時代に初めてエレキ・ギターに触れたという話は最初に言いましたが、その中学時代から高校時代にかけて、近所の楽器店に入り浸ってたんですよ。夏休み中なんて毎日ですから迷惑な客だったでしょうね。(笑) 

PCI:結構楽器買ったんですか?

今井:買ってましたよ。でも高校生のレベルの話ですから、6年間でギターを4本くらいですかね。昔はね、LMの典型的な楽器店っていうのはアコースティックギターとエレキギターが半々くらいで、それからヤマハの特約店の場合は各店に、必ずと言っていいほどギターのリペアマンがいたんですよ。ヤマハで研修があって「つま恋」かどこか分らないですけど、そこで研修してリペアの技術を一通り覚えて、ヤマハ認定リペアマンを各特約店に置いていたんですね。その入り浸っていた楽器店もヤマハの特約店だったんで、何人かのリペアマンに出会ったんですけど、その人達に憧れて「わぁーカッコイイな」と思ってたんです。リペアが自分でも出来る様になったらいいなと思い、そして将来の夢として楽器店を持ちたいなと思う様になったんです。それで、話は前後しちゃったんですけど、運よく山野楽器の海外事業部に入って、さらにちょうど上手くアフターサービス・リペア部門の欠員が一人あったんです。 


アメリカの Vintage Guitarショー

PCI:それは山野楽器さんに入社してすぐのことですか?

今井:すぐでした。80年の4月入社ですけど、それで最初からリペア部門に入れたんです。まぁ、最初は雑用ですけどね。倉庫の荷物整理だとか、梱包・発送とかね。結局85年まで5年間リペア部門にいたんです。その後、楽器小売部門に異動になり、楽器販売も経験出来たんです。まさに予定通りの経験を積むことができました。(笑) それから、店を持つためには実務的な勉強もしとこうと思って、 夜間大学の経営学部にも通いました。勉強熱心だったんで、ほかの人よりも1年長い5年間も在籍して(笑)、無事卒業しました。小売部門に移動になる前に卒業できてよかったですよ。売り場では、時間的に通学がきびしいですからね。小売部門では4年間働いたんですけど、89年に知り合いから「ヴィンテージ・ギター・ショップをやってみないか」と誘われたんです。その当時はシンセサイザーやドラムマシン、サンプラーなどのデジタル楽器の発展期ということもあって、楽器売り場の主役はデジタル機器でした。自分の好きなギターの仕事とは少しずつ離れてきていたんです。 そこで、その話しに乗ることにしたわけです。組織的には、その誘ってくれた人の会社の一部門でしたが、完全独立採算的な店でしたから、高校時代からの目標の「自分の楽器店を持つ」に近いイメージだったことが決め手になりました。まぁ、その直後には「イカ天」などの影響でバンド・ブームが来るんで、その誘いが1年あとだったら、話しは違っていたかもしれませんね。

PCI:結局、完全な御自分のお店を出されたのはいつ頃ですか?

今井:94年の9月に今の店「ヒストリーク ギターズ」を開店しました。 

PCI:山野楽器さんを退職してからヒストリーク ギターズを開店するまでの、89年から94年までの5年間でヴィンテージ・ギターの知識を吸収したのですか? ギターマガジンやギターグラフィックなどのギター専門誌に記事を寄稿されたと聞いています。 仕事柄ということもあったんでしょうが、なぜヴィンテージ・ギターに魅せられたんでしょうか?

今井:新品の中でもいい物はあると思うんですが、ヴィンテージ・ギターのサウンドはもちろん、ノスタルジックな部分に対しても魅力を感じるのです。その製造工程やパーツのバージョンなど、新たな発見が見つかったりして色々と奥が深い世界なんです。ちょっと考古学的な部分があるんですね(笑)。特にフェンダー・ギターは、山野楽器の海外事業部のアフター・サービス時代から親しんできたこともあって、ピックガードを開ける時は毎回ワクワクしますね。ヴィンテージ・ギターに関する知識は89年からの5年間で得たものが大きいのは事実ですが、山野楽器時代に多くの70年代から80年代製品に接した経験も役立ちました。商売的には正直なところ、新品は値引き競争ですが、ヴィンテージの世界では販売価格を独自に決められるという点も重要です。要するに、いくら好きなギターとは言っても、儲けが出なければ続けられないわけですから。

PCI:どんな内容をギターマガジンなどに書かれていたんですか?

今井:最初は、ギターマガジンのちょっとした毎月のコラム、確か1/4ページくらいの所で「オールドギターのTOMO」っていう名前のコラムでオールドギターというのはどういう物かというのを書いてたんです。日本では普通にオールドギターって呼ぶけどアメリカではオールドギターという言葉はあまり通じない、ヴィンテージギターというほうが一般的ですよね。そして、ヴィンテージっていうのは何に由来するかというと、古いワインの葡萄の当たり年から来てるとか、ミントコンディション、エクセレントコンディション、グッドコンディションとかはどういう意味かとか、あとはパーツがまったく交換されていないもののことを言うフルオリジナルっていう言葉は日本では一般的だけどアメリカだとオールオリジナルと言わなきゃ通じないとか、それからオールオリジナルの物は値段が高いけど楽器として良い悪いじゃなくて、客観的に判断してどうかとか、まあそんなことを書いていました。ギターマガジンで連載を1年くらいやったのかなぁ。あと、フェンダーのヴィンテージ・ギター特集の際には、原稿を依頼される機会が多かったです。最初がジャガー/ジ ャズマスター、その後にテレキャスター、それからでムスタング。ムスタングの時は大変だったんですよ。執筆依頼されたのがアメリカへギターの買い付けへ出発する3日くらい前で、飛行機の中でも原稿を書いた記憶があります(笑)。そのあとに、ふたたびジャガー特集をやりましたね。あとは、リペアやメンテナンスなんかの原稿も書きましたね。

アメリカのギターショーで有名なパーツ&楽器本販売ショップ

PCI:お茶の水の今の店で9年になるとのことですが、どんな9年でしたか?

今井:結果的になんですが、開店した94年はバブル崩壊後の景気の山に当たるようなんですよ。といっても景気の微妙な山がね。運良くその時に店を出したんで、最初の2〜3年は売上的に良かったんです。その後だんだん景気が悪くなって来て厳しい状態が続いていますね。楽器業界は今がかつてないほどの不況ですね。どこの業界も大変でしょうが。 

PCI:ヴィンテージギターの値段は結構下がってきたんでしょうね。 

今井:日本での相場ですよね? 下がったという印象は持っていないんですが、70年代のギターに関しての相場は5年前とあまり変わっていない印象です。ちょうど20万円から30万円台のモデルが多い年式ですね。本国アメリカでの相場はどんどん高くなっているのに、この年式のギターは日本国内での需要がここのところ減ってきているんでしょう。でもものすごい高いクラス、50年代から60年代初頭のヴィンテージ・ギターの王道と言われているモデルに関しては、絶対数が少なくなってきているんで、相場は相当に上がったと考えていいと思います。ただ、最近は委託販売を商品調達の主要手段にしているお店が増えてきたんで、そういったお店に並ぶものに関しては王道ものでも極端な安値で売られていたりしていますが、これは例外的な価格であって、相場と思って欲しくないですね。 

PCI:新しい楽器屋さん達が参入してヴィンテージ市場の競争が激化してきたということですね。 そんな厳しい状況の中でヒストリークギターならではのポリシーを教えてください。 

今井:まず品揃えですが、多くの店はその時々の流行の物を皆一生懸命揃える訳ですよ。大きな流れとしてはバンドブームの時にはレスポール、本物の50年代ものは当時から高値だったんで、その代替品として80年代のトラ目のレスポールがすごくはやったんです。 でもその当時トラ目のレスポールは私は一切買いませんでした。前の店の時の話ですが、89年から91〜2年頃でしたかね。たぶんそれを売れば、もっと儲かったんですけど。

PCI:やはりフェンダー中心だったんですね。 

今井:それもありますが、当時は、トラ目のレスポールの価格はトラ杢の出具合だけで値段が決定されていたんです。個人的にレスポールが好きではなかったことも大きいんですが、それがどうも納得いかなかったんです。たしかにトラ杢のメイプル材が高価なのは知っていますが、激しいトラ目が出ているだけで異常な高値になったのが納得いかなかったんです。頑固なんですね(笑)。でも、その後ヒストリック・コレクションが登場したことで、80年代ものの相場は暴落しましたよね。ちなみに、ヒストリック・コレクションのレスポールの実力は理解していますから、それらは扱いましたけどね。 それから90年代の半ば以降にはアンプラグドの影響でアコースティックギターのブームが来て、どの店でもアコースティックギターの在庫を占める割合が増えて来ていますが、うちの店の場合、全部で100本程度あるギターのうちアコースティックギターは1割もありません。今時のギター・ショップで、そんな店は他には無いですよね。もともと私はアコースティックギターはあまり弾かないということもあるんだけど、うちのような弱小店が他のお店さんと同じような品揃えをやっても生き残れないですよ。まぁ、頑固なんですけどね(笑)。

PCI:流行には捕われずにご自分のやりたいものを扱ってこられたということですかね?

今井:と言うか、好きっていうわけじゃ無いんだけどもおもしろい物ということで、選んだものも多くあります。ただ、世間で流行っているからっていう理由だけではあんまりやってこなかったと思ってます。

PCI:今井さんがやり始めたことによって、今まで誰も見向きもしなかったギターが日本で注目を浴びて来たということもよくあったと思います。60年代のVOXギター、それも有名なモデルじゃなくスピットファイアとかハリケーンとかも、今井さんが扱ったのはいち早かったですからね。 業界でも今井さんところが扱う楽器は注目していたんだと思います。そういう意味では常に今井さんの眼力と見識で良い物が日本へ持ち込まれてきたと思います。

今井:そうですかね。 ただ今はねえ、ネタが無いんですよ。90年代後半以降は王道ものしか見向きもされないって言うかね。

PCI:現在もフェンダーに品揃いを集中させていますよね?

今井:やっぱりフェンダーが好きですからねぇ。今でこそ山野楽器さんはギブソンもやってますけど、私が海外事業部に在籍していた当時はフェンダーだけだったこともあって、慣れ親しんだブランドですね。あとはまぁリッチー・ブラックモア好きなんで、やっぱりフェンダーってことになりますよね。ギブソンのES−335も使ってましたが、リッチーと言えばストラトキャスター。(笑)あ、そうそう、さっき言い忘れましたが、ギターマガジンでリッチー・ブラックモア特集の原稿を書いたこともありました(笑)。

PCI:品揃い以外にヒストリーク・ギターの特徴は?

今井:手間をかけてるっていうとこですかね。

PCI:具体的に言うと?

今井:気にしない人は気にしないかもしれませんが、ギターが入荷すると、まずオリジナル度を完全・正確に把握することから始めます。ヴィンテージとかオールドなんていうカッコイイ総称で呼ばれていますが、結局は中古品です。新品とは違って、過去のオーナーが何をしているかわからないですからね。その次に調整です。繰り返すようですが、しょせんは中古品ですから、生産されてから長い年月が経っていることでの状態の変化や長年の使用によって消耗している部分が必ずあります。調整なしでは、本当のヴィンテージ・サウンドは楽しめないですよ。 難しいのは、ヴィンテージ・ギターの修理・調整は、普通のギターのそれとは違った方法でやる必要があるということなんです。普通のギターだったらパーツ交換ですませてしまえば良いところを、ヴィンテージの場合はむやみに交換するわけにいきませんよね。まぁ、価値観はひとそれぞれですが、現実問題としてオリジナル・パーツが取り付けられているもののほうが高額で取引されているのですから。そうそう、うちでは金属パーツのサビなんかも全部落としているんですよ。もちろんネジなんかの細かいパーツもです。私自身が汚いのが嫌だっていうのもあるんだけど、たとえばネジのサビがひどくなると、最悪は廻すことができなくなったりするわけですよ。よくストラトの弦高調整のネジが固まって廻らなくなってますけど。ああいう状態のまま販売するなんて信じられないですね。でも一部のかたにとっては、あのサビがカッコイイと言うんですよね。天下のギブソンやフェンダーでも、新品なのに金属パーツを最初からサビさせていますしね(笑)。 私には理解できないです。

PCI:入荷したヴィンテージ・ギターは、全部調整した上で販売しているんですか?

今井:そういうことです。もちろん他のヴィンテージ中古ギター・ショップでも調整していると公言していると思いますが、言わせてもらえば、トラスロッドをちょこちょこって廻して弦高をセッティングするのなんて、あんなのは調整じゃないですからね(笑)。やっぱりフレット廻りを含めたオーバーホールをしないと。そのギターが完全な調整をされているかは、フレットを見ればわかりますよ(笑)。調整したと言っているのにフレットが錆びているなんてのは、私には理解できないですね。やはり長い年月が経つと指板面にゆがみが出てくるし、実際の弾いているとフレットが減っちゃうわけです。そうすると、フレットの連なりがガタガタです。あぁ、状態を言葉で説明するのって難しいですね。わかります? そういう状態だとビリツキや音詰まりが出ちゃうわけですよ。まぁ、ものすごい高い弦高で弾いていれば、そういった症状は出ないかもしれませんけどね。 それと、そういった演奏面だけじゃなくて、音質面にも影響しますよ。擦り減ったフレットっていうのは頭の部分が平らになっちゃうんで、本当のフレットの形ではありませんよね。弦の接する部分が点でなく面に近くなってしまうんです。これでは、ちゃんとした音が出るわけないですよ。そこで、その平らになったフレットを一本一本削って頭が丸くなるように整形するんですよ。

PCI:フレットを打ち直すんではなくてオリジナルの物を削るということですか?

今井:そう。本当ならフレット交換したほうが良いに決まっているんですけどね。オリジナルのフレットを生かして形状を整えるんです。これも現実的な話しとして、フレットっていう消耗パーツでさえも、交換されていると金銭的価値が下がってしまいますから。でも、交換しなくても結構大丈夫ですよ。程度にもよりますが、かなり深く減っているように見えても、意外とまだ充分な高さが残っているものです。でも、フレットの整形ですら嫌がる人がいるのも事実です。本当にオリジナル状態のままじゃなけりゃ嫌だっていう人。フレットに手を加えているのは許せないっていう人が。完全なコレクター志向の人の場合は、そういう意見は理解できないわけじゃないけど。そういう人には「弦もオリジナルじゃないと駄目なんですか?」と尋ねるんです(笑)。 でも、日本人の場合は、全く演奏をしない人のにヴィンテージ・ギターを買う人、つまり完全なコレクターってあんまりいないという印象ですね。アメリカには多いようですけど(笑)。で、私は、オリジナル・パーツを尊重するのは色々な面から重要だとしても、それは楽器として使用できてこそ意味があるという考え方です。さっきから話しているフレットの場合では、フレットの頭は丸くなければギターではないということです。オリジナルの状態を最大限活かしつつ、完全なオーバーホールをしてるっていうのが、いつも広告やサイトでも書いて強調しているところです。このフレット整形ってかなり時間がかかるんで、調整は1日1本程度しかできないんですよ。

PCI:随分手間と時間をかけて調整されているんですね。

今井:ここまで1本のギターの調整に時間をかけている店は、ほかにないでしょう。店が暇だからできるんですけどね(笑)。実際、量販店なんかの来店客数が多い店だったなら、こんなことをやっている時間はないでしょうね。お客さんには商品説明するときには、よく話すんです。「うちは、安売りの店ではありません。はっきり言って高いです」って(笑)。さっきも話しましたけど、最近はヴィンテージギターの業界で起きている安売り競争は、主に低い手数料率で委託商品を集めて販売しているお店が中心となっているんですけど、うちでの“売り”はあくまでも“コンディションの良さ”です。うちのギターの販売価格には、その調整料が加算されているということですね。 それで納得頂ける人はうちで買ってくれるのですが、失礼ながら、調整されているものとされていないものとの違いをわからない人が多いのも事実です。そういう人にとっては、セールストークのひとつぐらいにしか思っていただけないでしょうが。結局、その人は調整に価値観を見出していただけないわけで、それよりも価格に重点を置かれているわけですから、それはそれで仕方がないことですね。

PCI:我々としても今井さんのお店の様な信頼できるところは読者の皆さんに是非紹介したいと思っています。他でとんでもない物をつかまされて、今井さんの店に駆け込み寺の様に訪れるお客さんも結構いるとお聞きしますが?

今井:最近、他店で買って来られた直後のギターを根本的に修理、調整するものが結構あるんです。ここだけの話しですが、パーツのオリジナル度に関しても、かなりヤバイものも多いですよ。

PCI:他店で購入されたヴィンテージ・ギターでも、さっき話しに出たようなヒストリークギターズならではのオーバーホールを受けていられるんですか?

今井:やります。ただ金額はそこそこ頂きますが。うちの場合、さっき言ったフレットの整形とかも含めた楽器としての機能的部分だけのオーバーホールで基本料金が20,000円、それに塗装の磨き上げや金属パーツのサビ落としなど外観的な部分を加えると総額で基本料金が35,000円になっています。

PCI:ヴィンテージ楽器の販売と楽器のリペアの2本立てで商売されている訳ですね。ではそのヴィンテージ楽器の日本市場、業界ですが、この8年間どの様に変わってきましたでしょうか? 最近は過当競争で値段が下がってきたということですね?

今井:やっぱり8年前だと、ヴィンテージが好きな専門店が中心に動いていたんだと思います。最近は店を開業するにあたって、ヴィンテージが好きだってことよりは、新品よりも利益幅が取れるっていう目的だけの人もいるでしょう。あるいは在庫を抱えなくても商品を店頭に並べられる委託販売っていうのをフルにできるのは、中古・ヴィンテージだけですからね。そこに注目して競争激化し値段が下がってきたという面があると思います。色々な考え方があるので一概には言えませんが、委託手数料が今安いところは7%から10%程度となっているようです。でも7%や10%じゃ責任ある商売をできないと私は思うんですよ。新品ならメーカーや輸入代理店があるんで、品質に何か問題あった場合の最終責任はメーカーに負わせることができますが、中古品の場合はそうはいきません。店が責任を負う義務があるはずです。委託だからって、店が責任を持たないで売りっぱなしっていうのは、お客さんがかわいそうでしょう? そういった前提で、自己責任で購入されるのであれば、別に構わないんですがね。

PCI:本来はアメリカと同様にヴィンテージ楽器の値段は安定してていいはずなのに、日本ではこういう過当競争で値段が下がってしまったということでしょうかね。アメリカですと楽器店が集まっているハリウッドやニューヨークでもそれぞれの店においてあるものが違い、特徴があるのでそう値崩れはおきませんが、日本だとどのお店に置いてあるものもほとんど同じ物が多く、値段競争で差別化するということになりがちですよね。そういう意味では今井さんのヒストリークギターはお茶の水でも楽器街からはずれた場所に位置し、独自のポリシーで頑固に特徴を持った商売を続けてみえるのである意味アメリカ的ですよね。

今井:そうですかね。(笑)

PCI:製品の調達は直接アメリカへ来られて購入されるケースがほとんどですか?

今井:そうですね。以前は頻繁にアメリカへ飛んで買い付けをしていたんですが、最近は不景気ということもあってなかなかそう頻繁に来れなくなりましたけどね。

PCI:買い付けの面から、アメリカの最近のギターショーなどご覧になられてどう変わっていますでしょうか?

今井:よく言われているように、ヴィンテージ・ギターという数限りあるアイテムは減る一方なのは間違いありませんね。王道ものは本当に少なくなりました。ただ、うちのラインアップは、さっきお話ししたとおり他店とは違っていますので、買い付けできたアイテムに不満足だったことはないですね。ほかのお店さんでは、渡米しても買い付けできた本数や金額が予定を大幅に下回って、せっかく用意した現金を持ち帰ることも多いようですがね。

PCI:日本の市場で人気のあるものが判ると多くの日本人がアメリカに殺到して買い付けるのであっと言う間に値段が上がってしまった様ですね。

今井:以前は、そういった典型的な現象が起きていましたね。でも、今はアメリカ国内のヴィンテージ・ギター・ディーラーのほうが、高い金額を払って買い付けしていくようですよ。アメリカのヴィンテージ・ギター市場での買い付け相場は数年前はもちろん、数ヶ月ごとに高くなっている印象ですね。前は、アメリカでの相場が上がればそれに比例して日本の相場も上がったのですが、過当競争の影響でそうはいかないのです。為替相場の影響もありますね。95年の8月頃までは、1$が¥100を切っていた超円高でしたからね。95年4月なんて、1$が¥80台前半ですよ。アメリカでの相場が上がっても円高が進んだんで、それを吸収できた時期もあったのです。ところが、それからはどんどん円安の方向に行ったでしょう。それと同時に景気もどんどん悪くなったし、本当にきびしいですよ。

アメリカのVintage Guitarショーの例

PCI:そうですか。ヴィンテージの世界もいろいろあるのですね。 本日は有り難うございました。