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池部楽器 WSR


東京都渋谷区

額田さん


リペア工房として大変多くのファンを引きつけるその理由とは?

PCI:WSRというのは池部楽器のリペア・カスタマイズ工房になりますね。お店はいつできたんですか?

額田:そうですね。最初は1990年に僕が入社した頃、秋葉原(リボレ店)で店の一角を利用して修理部門の場所ができました。その後、お客様にも工房が見えるような形になったのは、2000年に池袋に移ってからなんです。

PCI:1990年頃からずっと、池部楽器さんのリペア部門におられたんですね。

額田:そうですね。1993年ぐらいまでは販売やりつつ修理やりつつという感じでした。それから池袋に5年いて、それからここ渋谷に移って3年目になります。

PCI:このハートマンギターズが渋谷に出店されたときに一緒にWSRもこの地下に出されたんですね。

額田:そうです。厳密に言うと2000年にハートマンが池袋に出店したときからいっしょですね。2005年にハートマンごと渋谷に引越しという形になります。

PCI:WSRとは何の略なんでしょう?

額田:Work Shop Revoleの略で、秋葉原のリボレ店にいたときからの名前です。

PCI:もう、リペアを始められて18年になりますね。場所的には、この渋谷に移ったことで何か大きな変化はありましたか?

額田:お客さんが大幅に増えましたね。

PCI:量的には現在どれくらいのリペアをこなされているんでしょうか?

額田:1ヶ月に150から200本はやっています。

PCI:すごい量ですね。それを二人でやってらっしゃるんですね?

額田:そうですね。実際にはもうぎりぎりでこなしている感じなんで、このようにどんどん溜まっていくという状況です。(笑)



PCI:WSRの営業時間は何時から何時でしょう?

額田:上の階と同じで午前11時から午後8時で、木曜日に定休をいただいてます。

PCI:忙しいですね。休みは週に1回ですか?

額田:はい、そうです。もしくは隔週にお休みをいただいています。

PCI:どういう内容のリペアが多いんでしょうか?

額田:千差万別ですが、リフレット、ネック折れ、ナット交換、あたりが多いですかね。それ以外にも本当にいろいろな要望があります。そういう意味では意外とストライクゾーンが広いかもしれないですね。結構なんでもありな感じですね。

PCI:飛び込みのお客さんも多いとお聞きしていますが、リピーターのお客さんも多いんでしょうか?

額田:そうですね。半分以上はリピーターのお客様じゃないかな?

PCI:お客さんの年齢層はどうですか?

額田:高校生から50過ぎの方まで幅広いですね。

PCI:今こうしてインタービューしてる最中にも、どんどん修理依頼のお客さんが入ってこられますね。今来られた方は、リピーターの方ですか?

額田:いいえ、今の方は初めての方です。リピーターの方は秋葉原の頃からの古い方も多く、あらかじめ電話で連絡をしてから来られる方が多いですね。

PCI:今の初めてのお客さんのご要望はどんな内容でしたか?

額田:部品が壊れたのと、音が出ないという電気系統の問題と、調整の依頼ですね。こういう調整の要望も多いですね。

PCI:リペアの看板を掲げている店はたくさんありますが、他店と比べてWSRのセールスポイントは何でしょうか?

額田:何が違うか? 難しいですね。(笑)

PCI:これだけお客さんが殺到しているからにはそれなりの理由があると思うのですが?

額田:今は、渋谷にあるっていうのが一番大きいんじゃないですか?渋谷にはライブハウスやリハーサルスタジオが多い割りにはあまりリペアショップってないらしいので。それと、渋谷に来てからは本当に来客のお客様が増えたので、納期を確約するようにしているんです。ギターを預かるときに、「修理カード」に納品の日付を入れちゃうんです。この日までに上げると。それをまとめたのがこちらのスケジュール表です。

PCI:ぎっしりスケジュールが細かく記入されていますね。

額田:実際にお預かりした場合、納期が重要になってきますからね。それが不透明だと、我々も困る(笑)。

PCI:いつできるかわからないってやつですね。(笑)

額田:我々の現在の状況を考えると、こうやって納期を確約していかないと、工房の中が回らなくなって、管理できなくなっちゃうんですよ。ある意味その日までに仕上げるって約束してしまうと、それを守るのは大変なんですけど、お預かりしたギターをいつまでに上げるのだと明確にして、作業日程を立てているんですよ。

 

PCI:先ほど実際に来られたお客さんとのやりとりを拝見させていただきましたが、まず修理の内容を説明された後に、お客さんは当然の質問として、「いつできるんですか」と聞かれましたよね。即座に「これは2週間で」と断言されておられました。これはお客さんにとっては安心感を与えますね。修理する内容の説明も明確で簡潔でしたし、お客さんのお顔を見ても納得して笑顔で帰られました。技術もさることながらお客さんの信頼感を得るこういう接客が、このお店の強いところではないでしょうか?

額田:そう言われてみるとそうかもしれないですね。納期が見えているというのはお客様にとっては安心な事ですよね(笑)

PCI:リペアショップに持っていったら逆にかえって悪くなってしまったという話をよくききますが、そういうお客さんがこちらへ来られるということもあるのでしょうか?

額田:同業者の悪口を言うつもりは無いんですけど、結局そういうクレームというか良くならなかったとお客さんが思っちゃうっていうのは、お互いの考え方の違いだったりとか、その時の状況に因ることもあるんだと思うんですよ。ギターを持ち込む前の状況がどんな状況だったかわからないと、そういう話はコメントしようがないと思います。持ち込む前の状況がめちゃくちゃひどい状況で、ここまで直れば上等ということもありますし、今日1日でこのリペアをやれっていう時間の制約があったかもしれませんよね。

PCI:そうですね。その状況に応じて、どういうコミュニケーションをお客さんとするかというのが重要ですね。こうして話をしている間にも、また新しい修理品の持ち込みがありましたね。今のお客さんにも症状の診断と、何をされるかを簡潔に、かつわかりやすくお話をされ、2週間で完了しますと即座に断言されました。あのお客さんも安心されて納得されて帰られましたね。

額田:そうですね。ここは小売店の中にある工房じゃないですか。普通の修理屋さんの工房へ入るのはなかなか勇気がいると思うんですよ。でもここなら普通の小売店で入りやすいし、実際に修理している人間と接客する人間が同じ人間であるというのが強みかもしれませんね。それからうちは作業分業しないんですよ。例えば、ここの部分は誰がやってここは僕が仕上げるとか、そいういうことは一切しないんです。

PCI:お客さんから注文を受けた人がすべてのリペアを責任もってやるということですね。

額田:基本的にはそうしています。もちろんその人の技術でできないことは手伝うことはありますけど。基本的には受けた人間が最後までやるというようにしています。分業だと責任の所在がどこにあるのかわからないですし、各工程で発生した問題点を把握しづらいですよね?それって意外と問題になるんです。僕の経験上。

PCI:ストライクゾーンが広いというお話がありましたが、ほとんどのお客さんの要望は受けられるということですね?

額田:なぜかメーカーさんからお客様を紹介していただく事こともあります。メーカーさんから別に話があるわけじゃないんですけど、振られることは多いです。「別のお店に持っていったらできないと断られ、だれだれさんの紹介で持ってきました。」と言われること多いんですが、でもその人のこと知らないしってことよくあります(笑)。

PCI:WSRに持ってくれば何でも直せると口コミで噂が広がっているんでしょうかね?

額田:いいのかもしれないんですけど、これはちょっと違うと感じる時もありますよ。でも確かにうちのお客さんの紹介で、というのは多いです。

PCI:口コミ以外にWSRとしての広告宣伝はされているんですか?

額田:今はプレイヤー誌のハートマンギターの広告の片隅に出ています。昔はギタマガにコラムを書いてたんですけど、現在はもうやってません。その後ネットの方でコラムを書き始めたんですけど、こちらも忙しくてやってる暇がなくなってしまいました。本当はやりたいことがいっぱいあるんですけれども、今の忙しい状況だと細かいことが全然できなくてちょっと困っています。

PCI:今後人を増やすご予定はあるんでしょうか?

額田:それも考えてはいるんですが、人を増やすってなかなか大変で、育てるにも時間がかかりますしね。

PCI:このお店はプロのミュージシャンの方もたくさんお見えになるんですか?

額田:結構たくさん来られますよ。

PCI:そういう人たちの要求は普通の修理とはまた違うんでしょうか?

額田:ミュージシャンの方々はピッチにうるさいですよね。当たり前なんでしょうけど。あと、急ぐ。やたら急ぐ。今日持ってきて、明日までっていう世界です。

PCI:リペアの仕事の面白さって何でしょうか?

額田:お客様もお店で働いている人達もそうなんですが、結果が全てじゃないですか。普通は結果というか目に見えているものが全てですよね。我々リペアマンが見ているのはそこにいたるまでの過程なんです。例えば、金額的にはぜんぜん安い修理だとしても、それにかかわる過程、実は膨大な時間がかかっていたりするわけです。その辺が面白いというか何ともいえないところです。お客様には実際に直したものをお渡しするわけで、直ったものしか見る機会がないんです。それに対しての努力だとかなかなか垣間見れないじゃないですか。業界的にもこういう裏側のことってあまりスポットが当たりにくいですよね。若い人達もこういう仕事に憧れて入ってくる人多いのですが、現実を見て驚く人が多いですね。仕事ができるっていうのは当たり前のことで、お客さんにお金を払ってもらうわけで、プラスアルファが必要なんです。

PCI:なるほど。リペアの仕事を始められた頃からそう思われていたんですか?

額田:自分がリペアを始めたときって、あまり輸入楽器が今みたいに出回ってなかったんです。市場に置いてあるのは国産のギターが主流でした。当時思ったのは、国産のギターって見た目がものすごい綺麗だということです。どこを見ても。だから修理してそれを超えるくらいのクオリティで仕上げなくちゃいけないという意気込みで仕事をやっていました。楽器っていうのは、まず部品などの機能があって、なおかつ音があって、それであと見た目の美しさがあります。それが3つ揃えば、完全なわけですね。ずっとその3つをバランスよく揃えることができればなと思っていました。

PCI:それを2週間とか限られた時間の中で完成させるというのが、要求される技術ということですね。

額田:そうですね。後は、客観的に見てどうなのかということがわからないといけないと思います。造形物を見たときには、それが美しいものなのかそうでないのか判断できる目を持たなくちゃいけないです。そして弾いてみたらちゃんとした音なのか、それも客観的にわかるという耳も必要です。その辺の部分はやはり経験を積んだ人とそうでない人の決定的な違いが出るところだと思います。上手く仕事ができるっていうことについては、ある程度時間をかければたぶん先輩たちに追いつくこともある程度できると思います。でも決定的に、ちゃんと突き詰めてやっていかないと追いつけない部分というのは、その辺の感性のところじゃないでしょうか。

PCI:そうですね。あと先ほど来られたお客さんとの会話を横で聞いていて思ったのですが、お客さんが「この問題の原因わかりますか?」と聞かれたとき、額田さんはすぐにその場で「これが原因だと思います」と診断されました。あのように即座に診断ができるっていうのは経験がないと難しいでしょうね?

額田:それは本当にその通りですね。その診断のスピードは経験の成せる技ですかね(笑)。例えば音が出ないといわれた時に、何で音が出ないかという診断をするまでの時間がその後の修理時間にも関わってくるんです。目で見て、音を聴いてみて、与えられた時間が10分だとすると、1分で診断できれば残りの9分が作業時間にとれるわけですよね?逆に診断に9分かかってしまうと、作業時間は1分しかなくなってしまいます・・・。

PCI:若い人たちもある程度経験を積まないと、その域には達しないということですね?

額田:経験する時間も大切ですが、やはり突き詰める、掘り下げるという意識も大切だと思います。今は、若い人たちって掘り下げるってことをあまりしないんですよね。音楽を聴くということにしても、今の音楽を聴いてその音楽のルーツって何だろう?とはあまり思わないみたいです。その音楽ができた背景っていうか、その音楽を演奏している人達は一体どんな音楽を聴いてきたんだろうかとか、そこまで掘り下げようとは思わないのかもしれませんね。例えばリペアマンでいうと、今いろんな工具があるじゃないですか。アメリカの業者でもいい工具をたくさん売ってますよね。そういう工具って確かに便利なんですが、それに頼り切ってしまうと技量的に上達しないんです。本来ならば、こういうふうな作業をして、こういうやり方をしてこうなんだというリペアの仕事を、それをスピードアップするためにこういう機械や工具を使うというのがいいと思うんですよ。ところが、先に機械ありき、工具ありきで仕事が出来ればいいじゃないかという風になってしまうと色々な意味で応用がきかなくなってしまうんですよね。こんな機械がないからこの仕事はできませんっていうのってよく聞くんですけど、そういう意味では WSRには便利グッズ的なものはほとんどないんですよ。これだけ幅広いことをやっている割には、工具や治具は大変少ないんじゃないですかね?

 

PCI:ほとんどの仕事を道具に頼らず本来の手作業でこなされているわけですね?

額田:手作業もそうだし、ある物を上手く代用して工夫してやってますね。結局、道具を使うのは人の手ですからね。

PCI:他のリペアショップとの違い、なぜこれだけWSRが忙しいのか、その理由が話していて浮き彫りになってきた様な気がします。あと、額田さんご本人のことについてちょっとお伺いします。ギターは弾かれるんですか?

額田:弾きますよ。今は忙しくてあまり弾いてませんが。

PCI:どんな音楽がお好きなんですか?

額田:うるさい音楽が好きです。メタル系が大好きです。

PCI:バンドとかもやってられたんですか?

額田:昔はやってましたが、最近はちょっとやってないです。

PCI:今聴く音楽もメタルなんですか?

額田:そうですね。メタル系が多いですね。でも最近は何でも聴きますよ。それこそフラメンコも聴くし昔の歌謡曲も聴きます。

PCI:最近お気に入りのCDとかミュージシャンを教えていただけますか?

額田:最近自分の中ではまっているのはなぜか80年代の歌謡曲ですね。

PCI:例えばどんな曲を聴いているんでしょう?

額田:中森明菜、とか歌謡曲じゃないけどスペクトラムとか、面白いなーと思って聴いています。それからダウンタウンブギウギバンド。

PCI:懐かしいですね。

額田:やっぱり昔の人たちはむちゃくちゃ上手いと思いますよ。

PCI:それこそ、あの頃のレコーディングは機械や道具に頼らずやってましたね。

額田:そうですね。それから松田聖子ちゃんね。すごいですね。あの辺の音楽は。何じゃこりゃって感じですね(笑)。バックのミュージシャンのレベルもめちゃくちゃ高いですよね?

PCI:音楽はその当時からずいぶん変わってきたと思うんですけど、リペアのお客さんの要望というのは最近変化しているんでしょうか?

額田:あんまり変わらないと思いますが、最近、みんないい楽器を持ってるなあと思います。昔は高校生とかだったら国産の6万円くらいのギターが普通だったじゃないですか。今は高校生でもポールリードを持ってたり、ギブソン持ってたりしますからね。最近、逆に国産のギターの修理品をあまり見なくなりました。

PCI:最後に、PCIサイトの読者に何かメッセージがあればお願いします。

額田:今の段階だと、仕事量が多すぎてあまり宣伝みたいなこと言えないんですけども、とにかく頑張ってやってますんでよろしくお願いします。

          
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