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2010年06月02日

第49回;ギター・ケーブル(シールド)の話、不思議な話、男前ブルースマンの話。

***何年か前のツアー中に盗難に遭い、
ギター・ケーブル(シールド)を含むほとんど全ての音楽機材を失ったとき、
PCIの堀場社長、三浦氏、そしてPCIジャパンの黒川氏から非常に大きな援助をいただいた。

いきなりテレキャスターを2本も提供していただいたばかりでなく
RCブースターをはじめとする多くのエフェクター、
そしてアーケイ・ストリングスとのエンドースメントは、
当時の自分にとっては復活のための強力な援護射撃だったし、
そのどれもが今では活動に必要不可欠なものばかりだ。
とにかくPCIからの機材はどれも完成度が極めて高く、
そしてそれぞれの持つコンセプトが実際に使用してみてすぐに実感できるという点で、
一度使うと他を使う気がしなくなってしまう。
この2本のテレのうちの1本は、先日山岸潤史さんが「日本で使わせて!」と連絡があり
「是非!」とお貸ししたところ、すかさず「あれはええギターや!」とのお返事がありました。
フロントがP90のゴールドトップのテレです。どなたかご覧になりましたか?

あの盗難直後、
エキゾチック・ベルデンという5mケーブル(シールド)4本と
パッチケーブル(エフェクター接続用の短いケーブル)約10本が
「まあ使ってみてください。必ず違いがわかりますよ。」と黒川氏から送られてきた。
翌晩から早速それらを使用させていただいたのだが、
正直言ってその時は「違い」のようなものをあまり感じることはできず、
ただただ、毎晩、無事に音が出ることを楽しみながら、
いつしかそれが当たり前になり、
黒川氏が「違い」と言ったことさえも忘れてしまっていた。

今年に入り、
あるスタジオのセッションでアンプからの音が時々途切れるようになり、
最初はACアダプターやDCブロックなどの電源系を疑い、
次にギターを疑い、そしてエフェクターを疑ったがそれらのどれでもなく、
最終的に原因は単に5mケーブルの老朽化だとわかった。

ここで初めて気がつくのだが、
盗難に遭ったのが2003年、
それ以来、フェスティバル、ツアー、スタジオ・ワーク、
そしてマンハッタンのブルース・バーと、
7年間という長時間の過酷な使用にもかかわらず
これらエキゾチック・ベルデン・ケーブルは
一度もトラブルを起こさなかったわけだ。
今までにこんなにタフなケーブルに出会ったことがない。

そして数週間前、
黒川氏から新品の5mケーブルが三種、計6本と
新しいパッチケーブル5本が届いた。
それぞれのケーブルの違いを話すのはとりあえず後回しにしておいて、
まずはギグで使用してみようと、
送られてきた三種類の中からそれこそなにげに一種類を
ギグバックのポケットに詰め込んだ。
たまたま持っていったその2本のケーブルはエキゾチック・ベルデン#9778で、
とにかくステージにアンプとペダルボードをセットし
ケーブルをギターにつないで「ジャラン」とEのオープンコードを弾いた途端、
「うわ!」と思わず声が出てしまった。
この音がジョージア州メイコンのブルースカイならば、
昨日までの断線ぎりぎりまで使用していたケーブルによって出ていた音は
まるで筑波山のふもとの濃霧注意報だ。
音の抜け、トーンの豊かさが比較にならないほど豊かで、
音の輪郭やピッキングのアクセントをはっきりと伝えることができる。
黒川氏の言う「違い」がどれだけのものか、
ここまではっきりと耳にすることが出来るとは思ってもみなかった。

最後にこれら三種類のケーブルの違いを
今の時点で感じるままに話してみる。
ただ、アンプからの音の抜けが素晴らしく
ギターのキャラクターを正確にアンプに伝えてくれるということ、
この点に関しては、この三種類のどれにも共通して言えると思う。

まずエキゾチック・ベルデン#9778、
第一印象は「暖かいトーン」。
フェンダーのスタンダード・テレとグレッチ6120で試したが、
テレ・ブリッジ(リア)やディアーモンドの「えげつない」トーンが気持ち良い。
そしてフェイザーやコーラスをかけたときも生音の暖かさが失われない。

次にセッションに持っていったのはエキゾチック・モガミ#2524、
使用したのはXotic Tele(HIRO Model)、
アイバニーズのチューブ・スクリーマーと
スタジオにたまたま置いてあったぶっ壊れそうな
マーシャルのトランジスタアンプの三点のみ、
でもこれが目茶々々気持ちいいコンビネーションで、
第一印象が「シングル・コイルPUの音が超気持ち良い!」。
勝手な憶測だけど、ストラトをチューブスクリーマー系のODで歪ませたい時なんかは、
このケーブルが本領を発揮するんじゃないかな?

xotic1.jpg
これがXotic Tele “HIRO Model”。
使用するたびにこのギターのスペックの良さには
つくづく感心させられる。製作していただいて本当に良かったと思う。

最後がエキゾチック・ベルデン#9395で、
もしかしたら今回送っていただいた
三種類の中ではこれが一番バランスのとれた
クセのないケーブルではないだろうか?
もちろん使用した楽器、
アンプやバンド構成、
そして演奏した場所の違いがあるので
はっきりと決めつけるのは時期尚早だけど、
どのギターをつないでも一番はっきりとそのギターのキャラが出て、
使用していて安心感があった。
特に、レスポールでスライドを弾いたら超気持ちよかった。

...というわけで、
長年手塩にかけて慣れ親しんできたギターから
最高の音を引き出すために最高のアンプを選んだのなら、
その両者をつなぐケーブルにもこだわらない手はない、ということ、
今回は痛感させていただきました。

***ステージの上で時々経験する不思議な話...
でもこれは怪談じみた話ではありませんので、
怪談が苦手とおっしゃる方もどうぞお読みください!

...ずいぶん前にも、
この経験談については触れたと思うのだが、
演奏中、それもライヴ・パフォーマンスの真っ最中に
とても不思議な感覚にとらわれることがある。
これは全てのパフォーマンスで起こることではなく、
自分自身が肉体的にも精神的にもバンドのグルーヴに完全に「乗る」ことができ、
ステージから投げつけた音楽というエネルギーを
お客さんたちががっちりと受け止めてステージに投げかえし、
現場(ライヴハウスやコンサートホール)の中でそれがどんどん膨れ上がり、
サーファーがボードで完全に波をとらえたときのように
そのエネルギーを完全にコントロールできるレベルまで自分自身も高揚した瞬間、
自分の意思でギターを弾いているというより、
自分以外の何か別な意思が自分の体に入り込み
勝手に自分の指を動かしているというような感覚になり、
この時に必ず起こるのが(ここからがとても言葉では表現しづらいのだけど、)、
ステージから少し離れた客席の上の
天井あたりにもう一人の自分が現れ、
ステージの上でものすごい顔でダラダラ汗をかいて
ギターをかき鳴らす自分を超冷静に醒めた目で
じっと見つめているのに気がつく。

この現象にはじめて気がついたは確か1998年頃だったと思う。
一体これはどんな現象で何を意味するのか、
今でも全くわからない。

それ以来、
今までにも何人かのミュージシャンにこの話をしてきたのだが、
共感してくれる人に出会ったことがなかった。
ところが、ごく最近、
ある新聞の記事に川井郁子さんという
クラシック・バイオリニストの記事が載っていて、
彼女いわく、
ステージの演奏で激しく弦を弾いているうちに
心が熱く高ぶれば高ぶるほど、
ステージの上の方にもう1人の自分自身がポッと現れ、
そのもう1人の自分が冷静な目で高ぶる自分を見つめている。

[ http://sankei.jp.msn.com/entertainments/music/100522/msc1005221945001-n1.htm ]

...全く異なるジャンルではあるけど、
同じ感覚を経験しているアーティストにやっと出会えた気がするし、
この方のライヴパフォーマンスを是非観てみたいと思う。
また、この記事を担当された方が、
「川井の魂は激しすぎる情熱を発散させるとき、いったん体を離れることでバランスを保とうとしているのだろうか。」
と書かれている。
確かに、おっしゃる通りなのかもしれない。

***最近、
年齢の離れたかなり若いミュージシャン達と演奏する機会が多い。
そのうちの一人がこのMat Snowで、
これは来週デュオで出演するショーのためのリハーサル風景。
http://www.youtube.com/watch?v=kSEm52FaN4g
声を無理やりブルースっぽく作りながら唄うシンガーを
最近巷でよく見かけるが、このマットはお聴きの通り、
とても自然に声を出している。
そして特筆したいのは彼のリズム感、
そして彼の弾くリズムギターだ。
ブルースのリズムギターのことは
まだ全くといっていいほど彼は知らない。
でも、彼のオリジナル曲の上にソロをとっていていつも感じるのだが、
この男ほど安定感のあるリズムギターを
弾いてくれるプレーヤーはなかなかいない。
Mathew_Snow_BeerGarden_001.jpg

彼のオリジナルはどれも
誰の耳にもブルーステイストが漂うロックだが、
幸いなことに彼自身がまだブルースに染まりすぎておらず、
ブルースという音楽をあくまでもシーズニングのひとつとして
スパイシーに取り入れながら自由な発想でオリジナル創りをしている。
もちろん、まだまだ学ばなければならないことは山ほどあるとは思うが、
彼のようなスタイルで曲作りの出来るアーティストが
今のアメリカのブルースシーンには必要だと思う。

また実に真面目でピュアな男で、
全くと言っていいほど商売っ気がない。
おまけに、同じ男が言うのも変だが、かなりハンサムな奴で、
目はブルーアイ、身長は180cmを軽く超えていて
俺と並ぶとまるで坂口憲二と池乃めだかのツーショット状態。
DSC_0221_resized.jpg

演奏先では常に女の子がまとわりついてくるが
本人は「俺はああいうのは嫌いなんだ。」と相手にせず
楽屋にこもってビールを飲みながら
「このリフ、カッコよくない?」とかなんとか言いながら
ギターの5番弦と6番弦を夢中ではじいている。
これからがとても楽しみなアーティストの一人だ。
Mathew_Snow_Quays_002.jpg

http://www.youtube.com/watch?v=sOLM77dQnDw&feature=related
この映像はまだ俺がこの曲を全く把握していない段階でのリハ。
膝とギターに挟んだコード譜から目を離せないのがもどかしい。

投稿者 hirosuzuki1 : 2010年06月02日 08:28

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