第6回:テレキャスター


ツアーとツアーの間にあるオフタイムは、
大抵は部屋で本を読んだり、音楽を聴いたり、友達にメールを打ったりと、
文字どおり、思い思いの時間を過ごすわけだが、
演奏や創作から自分自身を完全に切り離す、というわけではない。
自分自身の次のアクションの為に曲を書いてみたり、詞をひとひねりしてみたり、
それらをスクラッチレコーディングしてみたり、
もちろん、NYのミュージシャン達とのなじみの店で演奏してみたり。
長い事ツアーに出ていると、NYの小さなブルースクラブでの演奏がやけに恋しくなる。

半分ぶっ壊れたヴォーカルアンプと埃まみれのスピーカー、
ダクトテープでベタベタになったマイクスタンド、ステージがあればめっけもの、
モニタなんて気の利いた物は、まず期待しない方が良い,
そんなブルースクラブが俺がNYにやって来た頃には、
マンハッタンにだけでもいくつも有って、
一癖も二癖もあるようなミュージシャン達の人間臭い演奏が
それこそ毎晩のように楽しむ事が出来た。

そんなクラブで演奏していると、他で仕事を終え楽器を肩にしたミュージシャン達が
一杯引っかけがてらひやかしに来てくれる。
彼らを飛び入りさせてセッションが始まる、なんてのは当然の成り行き、
ふっと横を見ると、ビックリするような大物ミュージシャンがとなりで演奏していた、
そんな事は思い出したら数え切れない。
当時のそんな面影はめっきり薄れてしまった感のある、
現在ではすっかり小奇麗で安全なNYではあるが、
やはりそれでも、良く目を凝らして見てみると、今でも身近に音楽がある街、
「腐っても鯛」のNYCである。

そんな感じで、つい先日も、古い友人達のバンドのギグに行って来た。
場所はハドソン川を隔ててマンハッタンの向かいにある、地下鉄で10分足らずの街、
ホーボーケン。
たまたま友人のギタリストの一人が毎週一回その店でジャムセッションを仕切っていて、
自分のアンプを店に置きっぱなしにしているので、
ラッキーな事に当日はそのアンプ
(20wのカスタムメイド。ヴィンテージフェンダー系のサウンド)を使わせてもらい、
俺が持参したのはテレキャスター(Xotic)とオーヴァードライヴペダル
Xotic ACブースター)のみだった。

常々思うのだが、テレキャスターとは、
この世で最もシンプルなエレクトリック・ソリッド・ギター
(まぁ、1ピックアップのエスクワイアーがあるけど。)で、
だからこそ奥が深く、最も「おたく」なギターではないだろうか。
全くキャラクターの違う、二つの個性的なピックアップによって得られる、
明確な存在感のあるトーン。
このギターを使いこなすには、このギターのコントロールパネル、
特にトーンノヴを使いこなす事が必要だ。
リアピックはお世辞にも使いやすいピックアップとは言えない。
個性を把握しないで使うとえらいことになる。
しかし、もう言うまでもなく、カントリーミュージックには不可欠の、
このギターの代名詞的存在であるそのサウンドは、
トレブリーで直線的で攻撃的で、お構いなしに耳に突き刺さり、
まるでロックンロールそのものだ。
なのにトーンコントロール次第ではまるでレスポールのような
粘っこく分厚い音も生み出す事が出来る。
歴代の「レスポール弾き」レジェンド達の多くが、
セカンドギターにテレキャスターを選ぶ理由がここにあるのかも知れない。

また、これは意外に知られていない事なのだが、
もとはといえばこのピックアップはラップスティール用に開発されたものなのだそうで、
そのためか、スライドプレーにも非常にマッチする。
ヴィジュアル的には少々頼り無さそうなフロントピックアップは、
歌声をバックアップするのにほどよい、暖かい音のするピックアップだ。
つまり、リアピックアップとは全く正反対のサウンドキャラクター。
一度この使い易さを知ったらば、
これ程使い出のあるピックアップを捜すのは難しいのではないだろうか。

そしてこれらのピックアップをミックスすれば、
今度は60年代R&Bサウンドの代名詞ともいえる、きらりとしたトーン。
前にも触れたし、御存知の方も多いとは思うが、このミックス状態でトーンを絞り、
スタッカート気味にカッティングするとオルガンのようなファットなサウンドが得られる。
ここに揺れ系のエフェクトでも加え、
RCブースターで軽くオーヴァードライヴさせれば効果抜群、
さしずめB−3シミュレーターだ。

人づてに聞いた話だが、最近、もっぱらテレキャスターをプレーしているロベン・フォードが、
「テレキャスターとの出会いが人生を変えた。」とまで言っているという。
彼にそこまで言わせるとは、テレキャスターそのものの個性もさることながら、
余程バランスの取れた一本にめぐり合えたのだろうと察するにあまりある。
そこまでの楽器に巡り会う為に、
ミュージシャンは常日頃から楽器との出会いを大切にしているわけだが、
残念ながら、そんな可能性は非常に少ないと言わざるをえない。

去年の12月にロサンゼルスのCOZY'Sで演奏した際
XoticのM氏がカスタムメイドのテレキャスターを持ってきてくれた。
ゴールドフィニッシュの最もベーシックなテレキャスターだったが、
全体のバランスといい、丁寧に削り出されたネックのシェイプといい、非の打ち所が無い。
アンプを通した時の音の「抜け」の良さは抜群、
アンプに通さなくても生音のみで即「弾く気」にさせてくれる、
ビックリするほど出来の良い一本だ。
とにかく、「エレクトリックギター弾き」である以上、
自分の音楽がどんな方向に向かうのかには関係無く、
是非いつもこんな「出来の良い」テレキャスターを一本、
自分の手元に置いておきたいと思うのではないだろうか。

今回のギグでのもう一つの発見が、Xoticからのもう一つのブースター、
ACブースターとテレキャスターとの相性の良さだった。
経験から言うと、テレキャスターのリアピックアップの個性を損なわずに
図太いオーヴァードライヴサウンドを創るのはそう簡単ではない。
下手をすると、ただただ耳に痛いだけの薄っぺらな音になってしまう。
こんな時に便利なのがオーヴァードライヴペダルな訳なのだが、
これはこれで単純には済まない。
音が太くなるのは良いのだが、何だか妙に音がべたついてみたり、
コンプレッサーが掛かったような切れの悪さが生まれてみたり。
試奏するにあたってM氏から「ハムバッカーとの相性が良いと評判。」と聞いていたのだが、
俺の感想では、このACブースターはシングルコイルとも非常にマッチし、
トレブルとベースの二つのトーンコントロールでアンプとの相性を微妙に調節すれば、
太くて暖かいトーンなのにしっかりとしたコアのある、
飽きのこないトーンを生み出してくれる。

RCブースターといい、ACブースターといい、
久しぶりにのめり込めるこれら二つのXOTICブーストペダルである。

May 06、2004
HIRO SUZUKI

蛇足
***先日、テネシー州のメンフィスでの、ブルース音楽のグラミー賞とも言える
「W.C.HANDY AWARDS」の授賞式を観て来た。
ブルース界のレジェンドやエネルギッシュな新人ミュージシャン達の錚々たる顔ぶれと演奏で、
素晴らしいイベントだった。
その中でも印象的だったのは、授賞式の後半に行われたセッションだ。
ほとんど飛び入り参加の状態で編成されたいくつかのユニットが次々に演奏してゆき、
いくつもの素晴らしい演奏に楽しませていただいた。
このようなジャムセッションで良い演奏を聴かせるユニットには、
一人ひとりがあくまでも一(いち)メンバーとして曲を創造し完成させるまでのプロセスを
真摯に取り組み楽しむ「連帯感」のようなものを強く感じる事が出来る。
言い方を換えれば、もしそこに「エゴ」を持ち込むプレーヤーが一人でもいるならば、
その「エゴ」が全てをぶち壊してしまう、ということだ。
楽器演奏は音楽という創作作業の道具に過ぎない。

ヒロ鈴木はデボラ・コールマン(Deborah Coleman)バンドのリズムギタリスト。
デボラ・コールマンのサイトは↓
http://www.deborahcoleman.com/index.htm

今までのコラムはこちら。
ヒロ鈴木のWebsiteはこちら
ヒロ鈴木のインタビューはこちら
デボラ・コールマンとのライブレポートはこちら