第9回:ツアーミュージシャンの苦悩(XOTIC XT HIRO MODEL登場!)


スペインからNYCに帰って来た。
北部ビルバオでのショーを皮切りに、その後バルセロナに移動し、地中海沿岸の4箇所でのフェスティヴァルを廻るという、短いがしかし充実感の残る良い旅だった。
スペインの食事は美味い。基本的に塩味が中心のとてもシンプルな料理が大半だが、どの料理も素材そのものの持味を大切にした、飽きのこない、日本人好みのする味だと思う。新鮮な海産物や野菜を最高のオリーヴやオリーヴ・オイルと共に料理するのだから、もうこれは最高の贅沢、
軽い気持ちで注文したシーフードサラダが、オリーヴ・オイルとヴィネガーだけで味付けるだけなのにあまりにも美味く、その味が忘れられずにNYCのスーパーで同じ素材を買い集め再現しようと試みたが、どうしても同じ味にならない。素材一つ一つの新鮮さが違うからなのか、野菜やオリーブの浴びてきた太陽の違いなのか、それとも空気が違いすぎるのか...。
そしてもう一つ、素晴らしかったのがオレンジジュース。コーヒーショップ、レストランやタパスバーと、オレンジスクィーザーの無い飲食店はまず無いと言い切れるほど、街中どこででも気軽に絞りたてを飲むことが出来、病み付きになる美味さで俺は少なくとも一日三回は飲んでいた。

食事以外で感動的だったのはカタルニア地方やアンダルシア地方の車窓からの眺めで、ピカソやダリ、そしてガウディーといった天才を育てたのはこれか...などと一人で勝手に盛り上がってしまう程、美しくもどこか郷愁の漂う、妙にインスパイアされる景観だった。

そして何よりも圧倒的だったのがバルセロナのガウディー建築である。1998年にマドリッドで観たピカソの「ゲルニカ」や一昨年旅行した京都の「三十三間堂」に、観る者の心に突き刺さる、時空を超えたエネルギーを感じてきたが、ガウディー建築、特にサクラダ・ファミリアはそれらに匹敵する猛烈なエネルギーを発している。もうあそこまで行くと、「狂気」と言ってもさしつかえないと思う。一体、人間の何があんな途方も無い仕業をさせるというのだろう?

...こんな海外でのツアーは勿論、国内の旅行でも移動に航空機を使用しなければならない場合、十分に注意しなければならない事がある。それは荷物だ。普通、空港での搭乗手続きの際、利用者一人につき最高2つまでの荷物のチェックインが認められ、三つ目からは追加料金を払わなければならない。衣類やエフェクト・ペダルを収めた大型の旅行スーツケース、パスポートや貴重品を収めたショルダーバッグ、それに三本のギターを持って行くとする。スーツケースとハードケースに収めたギターを一本チェックインすればもう後の荷物は手持ちで機内に持ち込む他は無い。では残りのギター二本をそれぞれハードケースに収め、肩にはショルダーバックをぶら下げて機内に入ろうとすれば、セキュリティーチェックの段階でまず99.9%の確立で搭乗を拒まれる。チェックイン・カウンターに戻って少なくともどちらか一本のギターをチェックインして出直して来いと言われる筈だ。

もっと厳しい場合には、「機内持ち込みは手荷物一つのみに限ります。」と言われるかもしれない。そこで考えるのがダブル・ギグバッグ。これなら二本のギターが一つのバッグに収まるし、サイド・ポケットを使えばショルダーバッグも不要になる。ところが、2001年の同時多発テロ以来、時には一切の楽器の機内持ち込みを拒否されるケースが増えてきたのである。それも突然言い渡される。ギターは手荷物として認められず、例外なくチェックインしろ、と言うのだ。「前のフライトでは持込OKだったのに、なんで?!」といったフライト・アテンダントとの口論はごく当たり前の光景になってしまった。

ギタリストに取ってこんな不安な事はない。空港でどのように荷物が運搬されているかをご覧になった方ならばお解かりだと思うが、「FRAGIL(コワレモノ)」のシールなどは唯の気休めで、楽器がどんな壊れ方をしてもおかしくないほど、彼らの荷物の扱いは極めて乱暴である。更に、ヨーロッパ各空港で、どれだけ荷物の紛失、盗難が多いことか!(確かヨーロッパでも重要な空港がいくつもあるフランスには空港労働者達によって結成された窃盗団組織があると聞いた。かく言う俺も、昨年、ポルトガルでお土産にいただいた上等のポート・ワインをシャルル・ドゴール空港でチェックイン後のスーツケースから盗まれている。)航空機による移動、特にヨーロッパへのギターの持ち出しは、早い話、一つの賭けである。

この賭けに勝つ為、また負けた時のリスクを最小限に抑える為に、俺がいつも気を付けていることが、(1) ポケットの多い服装、(2) 大き目の旅行カバン 、(3) 最小限、最「安」限の機材、
これらの三点である。(1) は旅の常識。ちょっとしたショルダーバッグひとつ分のキャパは十分に確保できる。 (2) は勿論、旅行日数によるのだが、スペースの少ないカバンだと、いざという時に思わぬ出費を被る事がある。 (3) これは難しい。使い慣れた楽器のフィーリングを犠牲にしなければならない。それでも、長年愛用してきた大切な楽器、特にヴィンテージ楽器の事を思うと、背に腹を換える訳にはゆかないし...
...等々と、なかなか解決策を見出せない。もし、いろいろなサウンドに対応できるカスタムギターを一本用意しておけば、こういったツアーに非常に重宝する訳だ。

…あれは絶対に忘れられない、去年の9月18日の出来事である。カナダ東部でのツアーの直後、三日間のアメリカ中北部ツアーの初日、オハイオ州コロンバスでホテルの駐車場に置いた楽器車からほとんど全ての機材を盗まれてしまった。1963年製フェンダー・エスクワイアを含めたギター二台、アンプ二台、そして全てのエフェクト・ペダルとケーブル、工作ツールの入ったケース。手元に残ったのは楽器車から離れる時に手にしていたギブソンES335とそのケースに常備していたチューニング・メーターとニッパー(工具)のみ。地元ブルース・ファンの献身的な援助に救われて、その三日間の各演奏は何とかしのぐことが出来たのだが、その後すぐにスタートするウエスト・コースト・ツアーに全てを間に合わせる為、ニューヨークに戻るや否や失った全機材の確保に走り回ることになった訳である。

まずアンプだが、事件のあったツアーからニューヨークへ戻った直後に、あるジャムセッションで偶然使用したアンプが非常に気に入り、メーカーに打診したところ、ほぼ100%サポートという形でエンドースメントが成立、1〜2日後には30wアンプ2台が届いた。エフェクトペダルは使わなくなっていた旧いオーヴァードライヴとコーラスペダルを引き出しの奥から引っ張り出し、10年以上前に使っていたプラスティック製のボードに装着、この場の急をしのぐ事とした。(これは痛かった。金と時間をかけて少しづつ完成させていったコンビネーションをペダルボードごとごっそりと盗まれたわけだから。その後PCIのM氏からXoticのAC、RC両ブースターが届き、今現在のメインとなっている。)

問題はギターである。失ったのはスライド・プレーの為のギターと、サブとして使用していたシングルコイルのフェンダー。今から約8年前に購入し、しばらくメインとしても使用していた1996年製のフェンダー・テレをNYではいつもお世話になっているギター・テックのMc氏の元に持ち込み、ナット溝を深く削り直してもらい、臨時のスライド用ギターとして使用。次に、準備したかったのはサブ・ギター。ハムバッカー付ギターをメインで使用する上で、異なるサウンド・キャラクターのシングルコイル・ピックアップ・ギターを用意しておくのはキーボードレス・バンドのリズムギタリストとして非常に便利である。事件後に友人であるPCIのギター・テック、M氏から「何か手伝うことある?、ウチのギター、試してみる?」と連絡があり、ロスのギグにサンプルとして持って来てくれたXoticテレキャスターを試奏させてもらったところ、これが完成度の高い素晴らしいギターで(過去のコラムを参照)、今後このギターをサブとして使わせてもらいながら、早速、俺のアイデアを盛り込んだカスタム・ギターを製作してもらうことになった。

まず、ボディーはコンパクトでしかも俺自身が最も慣れ親しんでいるテレキャスターシェイプ、コンターなしのマホガニーバック、フラットトップ・メイプル。ネックはマホガニーのローズ指板でフレットはギブソンス・ケール、そしてネックとボディーはディ・タッチャブルとした。(意外に思われる方も多いと思うのだが、それは旅行中のセキュリーティー上どうしようもない時、ドライバー一本で分解し、旅行カバンに収められるように、との配慮からなのだ。大き目のカバンはこんな時に威力を発揮する。ツアー・ギタリストの苦肉の策なのである。)

ピックアップはフロントとリアにハムバッカー、センターにストラトのシングルコイルをセットアップし、それぞれの単独の他にも、センターとフロント、センターとリアの二種類のハーフトーン、フロントとリアのナチュラルミックスと逆位相ミックスをプルトップノブにする事で可能にした。結局はハムバッカーのサウンドキャラクターを最大限に引き出せるギターで、同時にサブ・ギターに求めるシングルコイル・サウンドのテイストを持ち、更に移動を考慮に入れたギターをデザインした訳で、これは俺に取ってかなり実験的なギターである。

今日まで十回程ステージでこのギターを使用した感想を述べるならば、ボディー・トップをアーチ・トップではなく敢えてフラット・トップにした結果得られた薄めのメイプルトップがサウンド面で大きなメリットになっているという点だ。両ハムバッカーは分厚いながらさらっと「抜け」の良いサウンドキャラクターで、ハーフ・トーンもバンド・アンサンブルの中でもはっきりした輪郭が見えて使い易い。センターはパワフルで、他の二つのハムバッカーとのコントラストも程よい。ただ現在マウントされているこれらの三つのピックアップが全体的に若干ホット過ぎる感も否定出来ないので、これからの課題は、このギターの個性にベストマッチするピックアップを探す事に絞られる。

ギター本体の完成度は、もう非の打ち所がない。それぞれのウッド・マテリアル、全体のバランス、フィニッシュ、各パーツ、ワイアリングと、どれを取ってもXOTICは完璧で、パーフェクトなギターと言い切れる。これから更にXOTIC XT HIRO MODELをいろいろなシチュエーションで使いこなしてみて、このギターに潜むどんな可能性が発見できるかが楽しみだ。

蛇足
ステイプル・シンガーズ、サム・アンド・デイヴやフィービー・スノウといった錚々たるR&Bレジェンドをバックアップしてきたニューヨークのヴェテラン・ベーシスト、ティム・ティンドルと先日久しぶりに演奏した。最近、彼はXoticのXJ-1にはまっている。
「最高に良いベースだ。特にネックがパーフェクト!」
その晩、俺もXOTIC XT HIROを使用していたので、クラブにやって来ていたミュージシャン仲間達の間ではもっぱらXOTICの話題が飛び交っていた。

Hiro & Tim at backstage

ヒロ鈴木はデボラ・コールマン(Deborah Coleman)バンドのリズムギタリスト。
デボラ・コールマンのサイトは↓
http://www.deborahcoleman.com/index.htm

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